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砲火

 ドドンと短く打ち上げられた焼夷榴弾が大型弩砲(バリスタ)の隊列で弾ける。

 交差するように発射された大量の鏃とバリスタの投擲体(ボルト)が車体の前後に降り注ぐ。いくらか鏃が屋根をリズミカルに叩くが、いまのところは大した問題にはなっていない。


「三つ!」


 その間にも姫様の射撃は続き、高台に並んだバリスタの砲座が順繰りに潰れて粉微塵に吹き飛ばされる。14.5ミリと――爆発力を持った砲弾のなかでは――比較的小口径なこともあって、榴弾の威力そのものはそう高くはないのだけれども。

 物理的な木製盾や石造りの遮蔽程度しか持たない砲座は、被弾するとひとたまりもない。


 ときおりバリスタの投擲体(ボルト)が唸りを上げて通り過ぎるが、走るBTRの車体に当てられるほどの精度はないようだ。


「マークス、“びーてぃあーる”は投擲体(あれ)を防げるか?」

「曲がりなりにも攻城兵器ですから、少しくらいはダメージを喰らうかもしれませんね」


 いってるそばから掠めたボルトが車体の屋根に弾かれて鈍い音を立てる。


「「「「ひゃああぁッ!」」」

「なに、問題ない。見たか、城壁でも崩す敵の大槍を弾いたぞ。不安なら右側に寄っておけ」

「は、はい……」


 子供たちは素直に車体の右側に寄って座った。


「よし、七つ!」


 三十以上あった砲座は一瞬で半分近くが破壊され、配置されていた弓兵たちもその巻き添えで戦闘不能に陥っている。まとまった鏃が降ってきたのは初回の攻撃だけだ。その後は散発的に打ち出されていたものの、集中を欠いた軌道で虚しく車体から逸れてゆく。


「マークス、少し止まれるか」

「はい」


 主武装のKPVT重機関銃から弾薬箱を外して入れ替える。その間、姫様は副武装のPKT汎用機関銃による攻撃に切り替えた。


「弾帯交換しました」

「助かる」


 すぐに射撃が再開され、残りの砲座も沈黙した。弓兵の生き残りはいるようだが、射掛けるたびに遮蔽の木製盾ごと貫かれて数を減らし、いまはもう隠れて息を殺すだけになっている。


「マークス、停止だ」


 姫様の指示で停車させると、前方に人影が現れた。見たところエルフの剣士、ではあるが身形が整っていて立ち振る舞いが達人ぽい。


「少し出てくる」

「だ、駄目ですよ姫様⁉︎ そういうのは従僕の仕事です!」

「あいつは、見たところ近衛の剣士だ。用があるのは、わたしだろう」

「だからって!」


「出てこい、クラファ!」


 “近衛の剣士”が、大音声で宣言する。


「“混じり者の偽エルフ”に、このアーバレスト・コムラッドが決闘を申し込む!」

「あ⁉︎」


 いきなり怒りで背筋が震えた。あいつ何様だ。一応仮にも自国の王位継承権者だってことは知っているだろうに。


「その箱のなかにコソコソと隠れているのならば、それでも構わん! “偽者”の貴様には、誇りある闘いなど過ぎた……」


 ドドンと、剣士の脇でKPVTの焼夷榴弾が弾ける。慌てて木陰に転がり込むのを見て、クラファ殿下はゆっくりとBTRの屋根に上がった。

 追いかけて止めようとしたぼくを視線で突き放す。手を出すなと、憤怒の表情が告げている。


「すまんな、聞こえなかった。()()()()()()()()()()と、いったかな?」


 咄嗟に木陰から立ち上がった剣士だが、既に腰が引けていた。脚はプルプルと震えて、顔は蒼褪めている。


「ま、ま……」

「“エルロティアの真の王”と、闘いたいか。構わんぞ。胸を貸してやろう」


 姫様は笑った。


「“偽王”に(かしず)く近衛の力、せいぜい見せてみよ」

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