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ガントレット

 小高い丘の上まで駆け上がって、目指すは次の稜線。その、はずだったんだけど。


「……姫様」

「見えている」


 山側は崖と森に阻まれ、谷側は斜度四十度を超える急勾配で車両どころか馬も入れない。ひとも気を抜けば転落死するほどの落差を持った断崖で少し前までいた遥か下の平地に繋がっている、ようだ。


「予想はしていた」


 地形がどうだろうと、大した問題ではない。急峻な山の上にあるエルロティアの首都まで攻め込もうというのだ。どのみち難路や隘路が目白押しなのはわかり切っている。目下の問題は……


「しかし、これほどとはな」

「「「ひぃいぃ……」」」


 道の左手奥、山側の高台にズラリと並べられた大型弩砲(バリスタ)の隊列に、後部座席で子供たちが押し殺した悲鳴を上げる。

 堤防のようになった部分が、要するに一般的城塞都市の城壁みたいな機能を持っているのだろう。高さと遮蔽を維持した安全圏から、近付く敵に攻撃を加え、排除する。考え方としては、わかる。

 石造りの堤防というか城壁というか、そこに置かれた砲座は優に三十を超える。砲座と砲座の間には、弓兵と思われる人影が並んでいた。


「案外、エルロティアも兵員は多いんですね」

「そんな呑気な話をしている状況ではないのだがな」


 ぼくの感想に姫様は呆れ顔で答える。


「実際、わたしも同感だ。あるいは、ここを抜かれると後が無いか、だ」

「こんなところで、もう……ですか?」


 いまいる位置からヘルベルのいる王城は山陰で見えないが、まだ数十キロはあるように思える。地形的な問題から、城壁で囲まれた王都というような形態にはならなかったようだけれども。“一の城壁”を築くには、ここは遠過ぎないかな。

 ぼくの疑問は当然理解したのだろう、姫様は少し笑う。


「天然の要害といえば聞こえは良いがな。あの王城や周辺地区には、まともな者は暮らせん。何をするにも不便で手間とカネが掛かり命の危険が伴う」

「え」

「わたしも行ったことがないので、母からの伝聞でしかないがな。まず、少し動くだけで息が苦しいそうだ」


 うそ、あそこ……高いのは見てわかるけど高山病の心配が要るくらい高いの⁉︎


「いつでも強い風が吹き、寒く、薄暗い。光魔法以外の光は差さず、魔法以外の火も消える」


 なんか、それ聞くと急速に行きたくなくなってきた。サッと行ってサッと殺して、そして……いや、待て。


「……姫様。クラファ陛下となられた後は、その暗く寒く寂しげな王城に暮らすのは王の義務だったりします?」

「いや。政務の折には城下に降りると聞いたが」


 よかった。いや、良かったのか知らんけど。そんな冬山登山の山頂みたいなとこで過ごさなきゃいけないとか、何の罰ゲームだと思ってしまう。まさか姫様ひとりをそんなとこに置いとけないし。

 魔法の力で暮らしはどうにかなったとしても、ずっとそんなところにいたらおかしくなってしまいそうだ。


「姫様が王様になったら、お城はもう少し暮らしやすいところにしましょうね」

「玉座を狙うような野心家や、それに(たか)ろうとする輩たちからすると、俗世から離れた王城暮らしは“王権の一部”と考えるのが普通なのだがな」


 会話を続ける間に、ぼくは砲塔の弾帯交換を済ませる。主武装のKPVT重機関銃に装填したのは、赤い頭の徹甲榴弾。


徹甲榴弾(これ)焼夷徹甲弾(はじけないタマ)ほどの貫く力はないが、あの射座や砲座に魔導防壁はない。これで問題ないだろう」

「では、参りましょうか」


 子供たちが小さく息を呑む。行きたくないのかもしれんけど、申し訳ないがこんなとこでは降ろせない。


「みな、わたしたちの巻き添えになってもらうのは心苦しいがな。心配は要らんぞ、貴様らには傷ひとつ付けずに終わらせる。怖いことなど、何もない。わたしたちには“守護神マークス”の加護があるからな!」

「「「おおぉ……?」」」


 いや、姫様それはちょっと。子供らも安堵の息を吐きながらチョイ疑問系だし。

 ここは子供たちに安心させるのが最優先だから、“守護神マークス”はあえて反論せず姫様に従う。


「その目で見るが良い。愚かな偽王に(なび)いた王党派(ヘルベルタ)どもが滅びゆく様を」

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