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襲撃

 ドンと鳴り響く銃声。一瞬のタイムラグの後、騎兵のひとりが不思議そうに腹を押さえ、仰向けに倒れながら馬上から転げ落ちた。立て続けに上がる銃声。姫様は銃の反動を物ともせず、次々に兵士を狙い撃ちにしてゆく。


「敵襲!」


 指揮官らしい騎兵が叫んだ頃には、既に半分近くの兵士が被弾して倒れ伏していた。

 殿下すごいな、ハズレがほとんどない。


「騎兵は当てるのが難しいな。歩兵の方が楽だ」

「それは、馬に当たらないか気にしてるからでしょう?」

「当たり前だろう。無辜(むこ)の民を傷付けて報復の名分が立つか」


 さすがに馬は民じゃないと思います。いや、理屈はわかりますけど。


「む?」

ボルト後退状態で停止(ホールドオープン)したら、弾切れです。弾込めはやりますので、こちらを」

「うむ」


 ぼくが装填済みの予備を渡すと、クラファ殿下は満足げに射撃を再開した。射撃に慣れたのかさらに発射間隔が短くなり、モタついていたので装填済みの銃を戻すのが遅れた。差し出すぼくの銃を受け取りはしたが、戻してきた銃はまだ弾薬が残っているらしくボルトが後退状態になっていない。


「まだ三発、残っているはずだ。しかし、もう的がない(・・・・)


 たしかに、残っているのは御者だけ。彼らは兵士ではなく雇われた民間人のようだ。


「……いまのところは(・・・・・・・)、だがな」


 姫様は遮蔽から立ち上がって、御者の足元に向けて一発だけ放った。


「逃げようとすれば、貴様らも殺す!」


 殺気立った殿下の声が届くと、御者はふたりとも両手を上げて降伏の構えを見せる。


「さて、懐かしの家族と感動の対面だ」


 クラファ殿下はポンチョのフードを下ろし、豊かな金髪を溢れさせた。馬車のなかにいる者に自分の健在を見せつけるように、ゆっくりと岩場から降りてゆく。

 ぼくも荷物を仕舞って後を追った。もう小銃は不要だろうと収納してしまった。いざとなれば自動拳銃(M9)でどうにかする。


「殿下、馬車のなかに、王族(ごかぞく)が乗っていると?」

「無論だ。歩兵と弓兵のために装甲馬車を仕立てるわけがなかろう」


 それはそうだ。馬車は無印で王家の紋章はないが、それだけに怪しい。マークスの知識を参照する限り、この場に来るのに身分の隠蔽が必要な者など王族以外にいないからだ。

 おそらくは、クラファ殿下の死を確認しに出向いたのだろう。それが“王家の影”を送り込んだのと同じ勢力だとしたら、王妃と第一王女ということになる。

 クラファ殿下からすると義母と義姉。マークスの記憶によれば、プライドが高く他人を認めない高慢な、そして親子で瓜二つの女性たちだ。


「もっとも執拗に、陰湿に、積極的に攻撃を加えてきたのが、あいつらだったな」

「そうだった、みたいですね」


 政治的利害でクラファ殿下と敵対していたのが、王と第一王子ケルファ殿下の派閥。経済的利害で敵対していたのが軍部と第二王子トリリファ殿下の派閥。

 そして、感情的利害から敵対していたのが王妃と第一王女マグノリファ殿下だ。

 味方になるような家族が全くいないというのがクラファ殿下の不幸の始まりだったのだが、それはともかく。


「実害が大きかったのは他の二派ではあったが。おかしな話だ。もっとも腹に据えかねていた敵は、あのふたりであったわ」


 平地まで降りると、殿下は倒れていた騎兵から腰の細剣を奪った。戦闘服のタクティカルベルトに革の吊り帯は妙に浮いているが、見栄えはこの際どうでもいい。

 あるべき武器を手に入れた彼女の背が、わずかに伸びたのを感じる。


 装甲馬車の前に立ち、覗き穴に銃口を突っ込んだクラファ殿下は残弾九発全てを叩き込む。車内から悲鳴が聞こえて、暴れる音がした後すぐに静かになった。

 姫様は奪った細剣を携えると、空の銃をぼくに手渡してくる。


「……出てこい、豚ども」


 低く重い声が、朝靄のなかに響いた。


「出てこねば、箱ごと焼き殺す」

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔の、貴族の趣味でやる狩猟のやり方なのがとても好きです。 1人就いて、撃ちきった鉄砲の弾込めする感じがエモい
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