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濁流

「も、こない? こわいの、いなくなった?」


 後部座席に収まった小さな子が、震える声で周りに尋ねる。返答はない。年長者にしたって訊きたいのは自分たちの方なのだ。安心させるために肯定するべきか、ある程度の真実を伝えるべきか迷う。


「いいや、まだまだこれからだ」

「……ちょ、姫様」

「なに、心配は要らん。どんどん来るのを、ばんばん殺してやるからな。そこで見てろ。楽しいぞ?」

「姫様?」


 魔導師エイケルくんは、そこでようやく“あの女性は誰なのか”という疑問に至ったのだろう。


「……あの、失礼ですが、あなたは」

「わたしか? わたしは、クラファ・エルロ・ヒュミナ。貴様らを真なるエルロティアに導く、“エルロティアの正統後継者”だ」


 ポカンとした顔の彼らがハッとしてひれ伏そうとするのを姫様は笑って止める。


「そういうのは要らん。子供が幸せに暮らせん国にした為政者に叩頭(ぬかず)く価値などあるものか」

「……でも」

「貴様らは、ただ見ておれば良い。わたしが、何を成すのかを。貴様らを導くだけの力量を持った人間なのかをな」


 前方の茂みからエルフの剣士らしい甲冑姿の敵が躍り出る。五人が進路を塞いで剣と甲冑に魔力を通す。


王党派(ヘルベルタ)の、“純血エルフ以外(アーリエント)狩り部隊”⁉︎」

「ほう、それは良いことを聞いた」


 クラファ殿下は穏やかな声でいったが、運転席背後の銃座からは怒りの気配が噴き上がった。


「止まれ! 無駄な抵抗は止めて、大人しく投降せよ!」

「笑わせてくれる。偽王の犬どもが」


 剣士たちの声に応えたのは、砲塔に搭載された副武装のPKT機関銃だった。弾き出された7.62ミリ小銃弾が五人の足先だけを粉微塵に砕く。


「「あああァ……ッ!」」


 魔導防壁が掛かってはいたようだが、数十発のフルサイズ小銃弾を防ぐには足りなかった。青白い光は、数秒で弾けて消えた。後に残ったのは、血塗れでのたうち回る五人のエルフだけ。


「ちょ、姫……⁉︎」


 ぼくが止める間もなく姫様はハッチから飛び出してエルフたちの前に立った。


「みんな、外には絶対に出るな!」


 子供たちに声を掛けて、ぼくもM4カービン装備で後を追う。


「貴様らは純血エルフ以外を捕まえると聞いたが、捕まえてどうする?」


 倒れたエルフにUMPサブマシンガンを向けて、姫様は静かに尋ねた。答えるものかと顔に書いてあるのを見て、彼女は笑う。


「答える気がないなら……」


 銃身を振って、端から三人の頭に一発ずつ銃弾を叩き込む。拳銃弾とはいえ剥き身の頭には防ぐ手立てもない。


「……それはそれで構わん」


 後頭部から脳漿をブチまけて三人は死に、残るはふたり。


「ひとりいれば良い。どちらが答える?」

「……あ、あ」

「ふたりともだんまりならば、他を当たる」


 回り込んできた追撃部隊は他にもいる。多くの敵意が近付いてきているのは、ぼくにも感じられた。


「アルケンヘイム」

「おい!」


 仲間を止めようとした男の頭を吹き飛ばし、クラファ殿下は最後のひとりに発言を促す。


「アルケンヘイムというのは、何だ」

「軍の研究施設だ。元は、孤児院だったが」

「場所は」

「王都の、東の端。神殿の、なかに」


 ぼくらは揃って溜め息を吐く。


「度し難いな。教会が、混血の排除に関与しているのか」

「お前、たちは……何を」

「するつもりか? 決まっているだろうが。偽王からの、エルロティア解放だ」


 用は済んだとばかりに姫様はBTRに戻る。ぼくは周囲を警戒しながら違和感を持っていた。

 魔導師が含まれてると聞いたんだけど、最も移動が速いのは魔導師じゃないのかな。甲冑付きの剣士に足止めさせた意味は?


「マークス、乗れ!」


 危機感を含んだクラファ殿下の叫びに、ぼくはハッチから車内に飛び込む。運転席に戻ると、目の前にいたエルフがキョロキョロしながら誰かに何かを訴えているのに気付く。


「すぐ出せ!」

「何かあったんですか?」

「あるんだ。これからな。おそらく魔導師はドワーフだ」

「え?」


 地響きが感じられた。それがどんどん近く、大きくなる。姫様の指差した山の上の方で、梢が揺れているのが見えた。


「あの馬鹿ども……土魔法の土石流で、ここ一帯を埋める気だ」

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