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キッドナップス

 ええと。どうしようか、これ。何しようとしてるのか知らないけど、魔導師の子は完全に臨戦態勢だ。さすがに遠過ぎるので木々の間を縫って五十メートルくらいまで近付く。

 このあたりは、ぼくというよりぼくの身体(マークス)隠密接敵(ストーク)能力だ。


「おい、いま“みんなの仇”って、いったな」

「え」


 返答があるとは思ってなかったんだろう。しかも、さっきより近いし。戸惑う声が聞こえてきた。身構える隙を与えずぼくは尋ねる。


「その“みんな”のなかに、アイマンって人狼の子はいるか」

「⁉︎」


 やっぱりか。森で縛られてた子たちの仲間だ。


「森で縛られてた七人の子供を助けた。お前たちのお仲間なら、引き渡す」

「……しッ」

「信じられないならそれでもいい。お前のゴーレムを倒した乗り物にいる。帰る家があるなら送っていくつもりだったが、同行するかしないか決めろ」

「……ほん、とに」

「信じるかどうかはお前の勝手だ。敵は待ってくれないからな。付いてこないなら見捨てる」


 M4カービンは背中に回して、ぼくは木陰から姿を見せる。相手は、アイマンたちと大差ない疲れ切った子供たちだった。怪我こそしていないが、疲労と汚れが激しい。

 見たところ年齢層は、こちらの方が低い。いくぶん年長なのは魔導師の子だけ。あとは幼児に近いのが三人。


「……もしかして、アイマンたち年長者は、お前たちを逃がすために捕まったのか?」


 ぐひゅッ、という音がして涙と鼻水を垂れ流し始めた。幼児たちだけではなく、魔導師の子までもだ。


「だっで、ダメだっで、いっだのぢ! あいづが、にげどっで!」

「いや、なにいってるかわからん。アイマンたちと合流したいなら急げ。ぼくたちも追われてるんで、あまり関わっている時間はない」


「マアアァークスッ!」


 姫様が叫ぶ声が聞こえた。まさか大した用もないのに見付かるような真似をするわけがない。敵が近付いているんだ。


「急げ! 早くしろ!」


 魔導師の子を引き立て、へたり込んでいた小さな子たちを両脇に抱えて、ぼくは森のなかをBTRまで駆け戻る。屋根のハッチから顔を出しているのは、世話焼きっぽい女の子。アイマンは横のハッチから飛び出して、こちらに手を差し伸べている。

 姫様の姿は見えないけれども、砲台が回っているところからして敵への牽制を行うところのようだ。


「エイケル! こっちだ、急げ!」

「アイマン! マータも! 無事だったんだ!」

「いいから、早く乗って!」


 年長の子ふたりが手分けして幼児たちをBTRの車内に引きずり入れる。


「マークスさん、後方から敵集団、数は十五から二十、うち最低四名は魔導師です!」


 マータと呼ばれていた女の子が、ぼくに報告してくれた。


「わかった! 車内に戻って!」

「マークス、お前もだ! 発砲するぞ!」


 屋根のハッチから出入りしていると、後方に向けた砲塔の邪魔になる。車内に飛び込むと同時にKPVTが轟音を立てる。ぼくは運転席に座ってギアを入れる。


「姫様、動かしますよ!」

「いいぞ、全力で行け!」


 バックミラーからでは視認できないけれども、それほどの脅威か、それほど近くまで迫っているということか。なんにせよ可能な限り距離を取る。

 ギアを入れて森のなかの道を突進する。攻撃魔法を受けたところで避けられるほどの道幅はない。これだけデカい図体だと、どんな飛び道具でも良い的だ。せいぜいBTRの装甲が耐えられることを祈るしかない。


「ふはははは、見ろマークス! あいつら怯えて逃げ帰っていったぞ!」


 姫様がひどく楽しげに笑う。本当は、ぼくにではなく子供たちに聞かせているのだ。自分たちといれば、何がきても大丈夫だと。

 そして、ぼくも姫様も本当は理解していた。

 魔導師たちは逃げ帰ったんじゃない。BTR(こちら)が道を選べないのを見て取って、進路上に先回りしようとしているのだと。

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