暗雲のアンノウン
外からの物音が絶えると、子供たちも動きを止めて車内までもが静まり返った。
砲塔下部の銃座から立ち上がって、姫様は不快げな声を上げる。
「……外道が」
「どうされました?」
「あのゴーレムは最期のとき、何かを拒絶するような意志が見えた。魔物使役者がいたようだな。隠れてこちらを窺っているあれがそうだ」
あれ、といわれても、どこのどいつなのかわからない。クラファ殿下が指す方向を見ても、森の木々に混じって何も視認できていない。
「撃てないのですか?」
「撃てるが、周囲に何かいる。それも敵だという確証が欲しい」
人質の可能性か。たしかに、また子供だったりすると夢見が悪い。
「テイマーの戦闘能力は、さほど高くないはずだ。わたしが行って潰してくる」
「ダメです」
「しかしな、マークス」
「ダメなものはダメです。それは臣下の役目ですから、ぼくが行ってきます」
不服そうな顔のクラファ殿下に子供たちを託して、ぼくは森のなかに踏み入る。
森のなかでエルフと渡り合える自信はないけどな。いざとなったら事前に調達しておいた銃が役に立ってくれるはずだ。
あまり上手くない射撃の命中率を底上げしようと散弾銃を調べてみたら、在庫が意外に少なかった。正面兵器じゃないせいかな。いくつかある在庫品も古いか状態が良くなかった。
苦肉の策というか一石二鳥というか、M4カービンの銃身下装着でレミントンのM870があった。M4もM870もけっこう古そうだけど状態は良い。これでまた弾薬が二種類も増えてしまったのは痛いが、しょうがない。姫様ほどの腕がないぼくにはUMPだと甲冑相手に不安があるし。
「ち、近付くな!」
百メートルほど先からか、震える声で警告が発せられた。まだ若い、男の声だ。一生懸命に威嚇してる風なのが、あまり上手くいってない。
その後ろの方でひんひんいってるのは、必死に押し殺した子供の泣き声みたいな感じ。捕まってるんなら、あの男を倒して救出するべきなんだろう、とは思うけど。
「“王党派”なんかに、好き勝手にさせるもんか! みんなの仇を討つ! どこからでも、掛かってこい!」
あれ、ちょっと待って。なんか、これ思ってたのと違う。