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燃える森

 車内に轟音が響き、KPVT重機関銃の射撃が始まる。森に光の矢が舞う。

 緑のドラゴンが咆哮を上げて身悶えるのが見えた。着弾した14.5x114ミリ弾は巨大な樹木質ゴーレムの身体を貫き灼熱を発して芯から(くすぶ)らせる。十数発が叩き込まれたところでドラゴンは明らかに嫌がって山肌から離れ遮蔽を求めて岩場に降りてゆく。その間も姫さまの射撃は的確にゴーレムを穿(うが)ち、全身に焼夷徹甲弾の雨を降らせる。


「「「おおおおぉ」」」


 後部座席で子供たちが悲鳴のような歓声のようなどよめきを上げている。自分たちが死と絶望と同義にしか思っていなかった敵が、悪夢の象徴であるゴーレムの巨体が、いまは瀕死の的でしかない。


「「「すごい、すごい……」」」

「そうだ、貴様らを守る“守護神マークス”を信じろ!」

「いえ、ですから姫様、先ほどからいわれているそれは何です?」

「我らが信じる神の名だ」


 シレッといってるけど、クラファ殿下たしか無神論者だった気がする。

 その話は後にして、弾帯交換のタイミングで焼夷徹甲弾から焼夷榴弾に切り替えた。弾頭全体が赤く塗られた焼夷榴弾には、わずかながら爆発力がある。戦車や装甲車が相手ではその効果も限定的なものらしいけど、曲がりなりにも樹木質であれば効果も期待できるだろう。

 弾薬箱の交換を手伝い、装填をサポートした。姫様は満足げに射角調整用クランクを回し、近くにいたぼくに声を掛ける。


「子供らを安心させるための方便というのも、もちろんあるがな。わたしの正直な気持ちだ、マークス。この期に及んで貴様を従僕(サーバント)と呼ぶには無理がある」

「ぼくは姫様のサーバントですよ。少なくとも、気持ちでは」

「注釈付きな時点で、無理があるのを証明しているようなものではないか」


 最後の悪足掻きかドラゴンは森の奥に隠れた。巨体全てを隠すまでには至っていないが、煙を上げる体内の熾火を鎮火しようとでもいうのか必死に身を(よじ)るさまが木々の奥に見え隠れしている。


「“じゅう”というのは、不可解で理不尽で無情なものだな。強者と弱者が、ひどく呆気なく入れ替わる」

「ええ。元いた世界では、“力を均一化するもの(イコライザー)”とかいうらしいですね」

「いこらいざー?」

「強者と弱者の差を埋めるもの、みたいな意味です。逃げ隠れして犠牲になるしかない弱い者にも、戦う力を与える」

「まさに、それだ」


 よろめきながら立ち上がった樹木質ゴーレムの胸元に、焼夷榴弾が雨あられと撃ち込まれる。もう緑のドラゴンに逃げる力はない。跳ね返す力も。よろけながら、強者の矜持だけは捨てないとでもいうように、こちらへ足を踏み出す。穴だらけで炎上を始めた彼の“敗者としての死”は確定していたけれども、ゆっくりと向かってくる姿には奇妙なほどの静謐さと威厳は感じられた。


「ゴーレムに、それほどの気概があろうとはな」


 KPVTの銃座で、弾帯最後の薬莢が弾き出される。射撃が止まった後の静寂に、ゆっくりと倒れ込むゴーレムの地響きが聞こえてきた。

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