ゴーレム
負けはせん、と姫様はいったものの。ぼくはゴーレムがどんなものかもイマイチわかってない。
「ときに姫様、ゴーレムというのは、どんな……?」
子供らに聞こえないようコソッと訊いたぼくの態度で理解したのか、クラファ殿下は呆れたように笑う。
「貴様が信じないでどうする。わたしは負けんといっただろうが」
「あ、いえ、はい。勝つとは信じてますが、ゴーレムに車載機銃が通用するかどうかを」
「心配要らん。“ふぇれっと”の“じゅう”では五分五分だが、“けーぴーぶぃてぃ”ならば問題ないぞ。相手は樹木質ゴーレムだ」
「鉱石や金属質ではない?」
「土魔法由来はドワーフの得意とする技術だな。エルフには馴染まん。ああ、あれだ」
なるほど木製なら焼夷徹甲弾で倒せそう……なんて思っていたぼくは姫様の指した窓の外を見て凍り付く。
体高が十メートル、体長が二、三十メートルはありそうな緑色のドラゴンが山肌に取り付いていた。
「……いや姫様あれ、本当に木ですか」
「植物だが、いわゆる“木”とは少し違うな。草木灰に魔力を通して顕現させる」
「えええぇ……」
姫様はBTRの砲塔下部に座って左右のクランクを回す。まさか、あんな召喚モンスターとは思ってなかったんだけど、KPVTで通用するのかな?
「早く“くるま”を出せマークス、あれも質量だけなら鉱石質ゴーレムと変わらん。踏まれるとBTRもただでは済まないぞ?」
「はい!」
轟音を上げてBTRが加速してゆく。その進路が樹木質ドラゴンの鼻先を通ることを理解して子供たちが押し殺した悲鳴を漏らした。たぶん違うのも漏らしそうになってる。ぼくも正直、心境は大差ない。あんなもん相手にするくらいなら尻尾巻いて逃げ帰りたい。
……けど。
「みな聞け! 逃げ場などないのだ! どこに逃げようと、変わりはしない! 貴様ら“純血エルフ以外”を虐げ踏みにじってきた“王党派”が、そして偽王ヘルベルが、力を増すだけだ!」
半分はぼくらに、半分は自分に、言い聞かせるように姫様は声を上げる。
「前に出る以外に! 敵を倒す以外に! 我らの生き延びる道などない!」
ドラゴンの咆哮と迫り来る地響き。子供らの絶望感を打ち砕くように、車載機銃が凄まじい音を立てて発砲を開始した。
「目を瞑るな! しっかりと見ていろ! これが、貴様らを守る“守護神マークス”の力だ!」
「……はい?」