ヒルクライマー
ぼくらは慌てて食事を切り上げ、フェレットの車内に入る。
運転席に着いてエンジンを始動。姫様が砲塔のハッチを閉めるのと同時に、空が陰った。
「……いきなりだな」
戦力の集合を待たずこちらの足止めを優先したのか、数百の鏃が四方から弧を描いて飛んでくる。
同時に射掛けてくるほど連絡が徹底してはいないようだが、時間差から散布が面で広がり逃げ場がない。
「マークス、前進だ」
ギアを後退に送りかけて止める。当たり前だが、矢を恐れる必要などないのに気付く。自覚のないまま冷静さを失っていた。
姫様は落ち着きを保ったまま、車載機銃を放って進路を示す。土煙と、血飛沫でだ。見えてなかったが伏兵がいたらしい。
「そこの左端を抜けろ。右手に見下ろしの弓兵陣地があるから、こちらで潰したい」
「了解です」
鏃をバチバチと弾きながらフェレットは前進する。指定された道は緩い傾斜で、登りながら右に大きく折れている。そのインコース側が庇状になっていて、ぼくの位置から視認できないが陣地があるのだろう。
そこを砲塔の仰角で狙えるように左いっぱいのコースを通ったが、姫様は砲塔を右旋回させたまま小さく唸る。射界は取れなかったようだ。
「少し厳しいな。“ななきゅう”を使う」
砲塔上部のハッチを跳ね上げ、姫様はM79グレネードランチャーを放つ。基本操作以上の練習は出来ていないというのに、狙いは正確で再装填速度も早い。
見込みで放った五発ほどで矢の飛来は途絶えた。
スロープを回り込んで、弓兵陣地があると聞いた高台に出る。
こちらに弓を向ける者はいるが、有効打が飛んでくる様子はない。奥からは榴弾を喰らった集団の阿鼻叫喚が伝わってくる。銃座からの射撃で、動く者はいなくなった。
「最初からM79の榴弾を使うべきだったのかもしれんが……」
「あまり好きではない?」
視認外で無差別に殺戮を行う兵器を嫌ってことかと思ったが、姫様の判断は少し違っていた。
「いや、単純に安全のためだ。返される可能性がある」
「え?」
「“ななきゅう”の破裂力は凄まじいが、飛翔する力はそう強くない。奴らまだ気付いていないが、エルフの高位魔導師なら風魔法の集中で弾き返すぞ」
爆発前にこちらに戻ってくる可能性があると。現代兵器も万能ではないか。あまり過信しないでおこう。
「集合途中の兵士たちは隠蔽魔法で身を隠して散開した。かなりの手練れが混じっている。しばらく外には出るな」
「了解です」
ブレイクもなしに、第二次遭遇戦だ。