星を笑わせる子ども・ヲメガ
四十六人目の子ども
「星を笑わせる子ども・ヲメガ」
ヲメガは、眼が宝石のように輝く、燃え立つ髪の子どもです。
国と国が喧嘩をした日から、雨宿りをしていて、雨が止むのをずっと待っています。
雨は体に触れると、いつの間にか消えてなくなり、濡れてしまうので、屋根がある家は大事です。
雨が降っていると、友だちの家や公園にも遊びに行けません。
重いカーテンを開けて、窓越しに、友だちを捜しますが、霧がかかっていて、よく見えないのです。
会えない日が続くと、日常が遠のきます。
あの子とは、仲が悪かったから、嫌いだったのに、あとから「あいたい」と思う気持ちがつのります。
いくら素直な気持ちを手紙に書いても、「あいたい気持ち」は、郵便配達のおじさんが来ないので届きません。
いつもなら父親に脇を持ち上げて貰い、ポストに手紙を食べてもらえるのに、頼れる父親が、外に雨傘を買いに出掛けたっきり、帰ってこないのです。
その代わりに、母親が「ヲメガ」と名前を呼んで、引き戻してくれます。
ヲメガは、母親に訊きます。
「どうして雨の日は、子どもは、外に出ては行けないの?」
母親は、ローズ模様のカーテンを閉じながら、「星が流した涙だから、かかると、まぼろしになってしまうからよ」と教えてくれます。
ですが、変な話です。
大人は、父親のように外に出られるのに、子どもは出られないなんて、もしも、母親の話が本当ならば、父親は、もうとっくのうちに、まぼろしになっています。
そんなこと、ぜったいに、ありえない。
もしも、本当なら、眼から宝石が零れてしまう。
大人は、時々子どもに嘘をついて困らせます。
よれた服が濡れると「洗濯」しないといけなくなるから、面倒なのです。
たぶん、そうです。
髪をかきむしり、家の柱に、頭を打ち続けます。
「ゴン」
「ゴン」
「ゴン」
「お母さんは、ピノキオだ」
その度に、家が大きく揺れます。
母親は、「もう、やめて」と顔を伏せます。
丸まった背中は震え、止みそうにありません。
雨音に気付くと、自分が、母親の話を信じようとしなかったから、傷ついたのだと、悲しくなります。
泣き顔より、笑顔の方が、美人で綺麗なのに。
笑わせるには、どうすればいいのか考えます。
そうだ。
雨は、星が流した涙だから、星が笑顔になれば、雨は止むかもしれません。
「僕、星を笑わせてくる」
顔に、めいいっぱいラクガキをして、外に飛び出して行きます。
スローモーションがかかり、母親が、崩れた顔で叫びます。
外では、雨が降り続けています。
本当に、星の雨で、金色です。
かかると、まぼろしのようにキラキラと、家や建物が消えて行きます。
それは、余分なものを削いで星を綺麗にしていくかのように、稀に見る摩訶不思議な現象。
大人は、これを「終焉」と呼びます。
星は、ずっと昔から、こうありたかったのかもしれません。
頭のてっぺんにかかり、燃え立つ髪が優しく撫でられます。
生まれた日のこと、友だちに出会えたことが走馬灯のように廻ります。
公園に着いた頃には、体の半分がキラキラと輝いています。
星から見えるように、顔をグチャグチャにして、おどけて見せます。
すると、空が淡い桃色に染められていき、ローズの刺繍が縫われ、カーテンのようになびきます。
「ヲメガ」
そう呼び戻されると、父親が勇ましい制服姿で立っています。
両手に抱えられた白い雨傘には、雨粒が光ります。
もう止んだからと、風が攫っていきます。
眼が潤み、宝石がいっそう輝きます。
互いに走っていき、ヲメガを強く抱きしめます。
父親は、伝えます。
「止まない雨は、ぜったいに無い」
伝えたいことは、沢山あるけれど、離れたくないと、さいごの光を放つのです。
ヲメガは、星を笑わせた、
しあわせな子どもでした。




