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ふこしあ  作者: 山口かずなり
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森の中でブラブラする子ども・ローズマリー

四十四人目の子ども


「森の中でブラブラする子ども・ローズマリー」


ローズマリーは、ヒラメ顔の、長い銀髪がふんわりとした子どもです。


品のあるワンピースや、お高い帽子を幾つも持っていて、どの子が似合うかなと、着せ替えを楽しみます。


お気に入りは、「白い帽子」


百合の花びらをふわりとかぶり、鏡の前、バレリーナを気取ります。


すると、扉のドアノブが音を立て、ゆっくりと開きます。


飛びついてきたのは、白い犬。


名前は「ケープ」


頬ずりをして、ほのかな暖かさを感じます。


掛け時計を見ると、針が散歩の時間を指しています。


足下をクルクルと回り、扉の外へ急かします。


微笑みながら、廊下に出ると、手すりの向こう側には玄関ホールが見え、天使の天井画が広がります。


シャンデリアの花に導かれて階段を降りて行くと、使用人たちが玄関の扉を開き、横一列に並んで、深くおじぎをします。


豪邸を背景に、見送られながら散歩に出掛けます。


町中では行く先々で頭を下げられ、同い年の子どもたちからは、「帽子が可愛い」と褒められます。


胸の前で指を折り重ね、膝を曲げながら、軽くしゃがみ、「どうもありがとう」


感謝の言葉は、いくら削っても減らず、相手の気分を良くする呪文なので、一家の口癖です。

けれど、同じことを繰り返していると、足腰や、顎が疲れてきます。


そろそろ帰る時間です。


すると、ローズマリーの顔色をうかがい、脚にケープが飛びつきます。


帰り道を正しく誘導するのは、彼の役目。


とても「お利口さん」です。


豪邸に帰ると、豪勢な料理の数々が、食卓に並んでいます。


椅子を引いてもらい、腰掛けると、遠くの席から、顎髭をリボンで結んだふくよかな男が、今日の出来事を自慢げに聞かせてきます。


男は、建築王。


ローズマリーの偉大な父親。


訊くと、また高い塔を建てるのだそう。


町の建築物の殆どは、先代が建てたもので、角砂糖色の高い塔は、父親が建てたもの。


高い塔はよく目立ち、金持ちは絶賛したと言います。


塔の中で宿泊させ、酒やギャンブルで、甘いひとときを味わせ、得た金でより高い塔を建てる。


それが父親の高い目標。


食事の最中でも、いいアイディアが浮かぶと、席を立ち、出て行きます。


母親は、イヤリングを揺らして、含み笑いをしていました。


ローズマリーは、食事を終えると、バルコニーに出て、町の方を眺めます。


すると、ケープの毛が脚をくすぐり、優しく抱き抱えます。


豪邸から見る景色は、贅沢です。


高い塔は、剣山に咲く一輪の花で、それが幾つも咲いていて、花園のよう。


ん?


あれは何でしょうか?


町の遠くの方に、大きなカリフラワーを見つけます。


よく見ると、白い森です。


すると、ケープがうなります。


どうしたの、と心配しますが、落ち着かずに手から逃げ出します。


お利口なのに、せわしい子。


そっぽを向いて、森に心が惹かれます。


緑色ではなく、真っ白だなんて、雪が降り積もっているのかもしれません。


雪遊びに心が踊ります。


大人なら、あの森のことを知っているのではないかと、植物の髪を切りそろえる、老いた庭師に訊きます。


「あれはハッカの森、乳白色の鹿が住む、禁じられた地、森の奥深くには神が住んでいて、大切なモノを代償に、どんな願いでも叶えてくれるんだ」


そのことを両親に伝えると、不安げに顔を見合わせます。


父親は、代々受け継いだ古い日記に、塔を高く建てすぎた際には、ハッカの森に家族を連れていきなさいと、書かれていたことを伝えます。


ローズマリーは、先代が神に会えたのかが気になります。


ですが、父親は、一人でバルコニーに出ていたことを叱ります。


「ローズマリー、高い場所は危ないから、一人では出ては駄目だと言っただろう、そのまま落っこちでもしたら、どうするんだ」


「私なら大丈夫よ、天井画の天使さまに好かれてるから、


お父さまの方こそ、高い塔から身を乗り出して、死なないでね」


父親は、全くこの子はと、ローズマリーを追いかけ、家族を笑わせました。


これが家族のしあわなひととき。


けれど、それは永遠には続きません。


その間も、高い塔は、金持ちに甘さを提供します。


甘さは、癖になり、幾ら舐めても、腹にたまりません。


しまいには角砂糖のように削り、ブラックコーヒーの渦の中に放り込んで、すすります。


まだまだ苦いコーヒー。


もっともっと甘くなれと、角砂糖を削っていき、欠片が飛び散ります。


すると、黒糖の蟻が、ペロリと舐めたから、さぁ、大変です。


甘いものは、おいしいから狙われます。


蟻は大群で高い塔に押し寄せ、中に入り込み、ガブガブと食い散らかします。


父親は、それに驚いて、金持ちたちに助けを求めます。


しかし、人間は、甘くありません。


他人の不幸は蜜の味と、舌を見せられます。


豪邸の窓ガラスは鈍器で叩き割られ、使用人もそそくさと逃げだし、盗まれたものは数知れません。


誰からも絶賛されていないことに気付いた父親は、寝室で笑い転げ、母親は、食卓で真っ裸で泣いて不憫でした。


ローズマリーは、自分のことを「きずものマリー」と唱えながら、門の前で横たわるケープを見つけます。


噛んでいたのは、白い帽子。


やせ細り、優しい顔を見上げて、噛む力を弱めます。


ずっと、大切なモノを守っていたのです。


涙をこらえて、白い帽子を深くかぶり、羽毛に顔を埋めてから、抱き抱えます。


何か栄養のあるものを与えようと、門に手をかけますが、町に行く気にはなれません。


あそこは剣山のように触れると痛いのです。


ケープを抱え、豪邸に向かって、走ります。


天井画だけは、剥がせなかったのか、見ていただけの天使に唇を噛みしめます。


声のする寝室の扉を開くと、両親が何やら深刻そうに相談をしています。


母親は慌てて涙を拭き、父親はローズマリーの顔を見て、優しい顔を見せます。


「たまには、家族水入らずで、ハイキングに出掛けよう。


神さまに願いを叶えてもらい、もう一度やり直そう」


父親は、顎のリボンを解き、母親は、こぶしを解いてイヤリングを見せます。


ローズマリーは、白い帽子を見せるように、深くおじぎをしました。


三人と一匹は、先代の古い日記に記された、田舎道を選んで、虹のアーチを描くように「ハッカの森」に着きました。


風がそよぎ、爽やかな香りがします。


神秘的な森ですが、生き物の囀りはなく、草花は白く燃え尽き、背の高い白い木は、人が柱にされたかのように奥深くまで続いています。


父親は、ケープの首輪に赤いリードを繋いで、誰が一番始めに神さまを見つけられるか、競争だと、おどけて駆け出します。


眺めの良い場所まで上がり、蒼白の滝のてっぺんから手を振ります。


少し長めの赤いリードを岩に巻き付けて、腰に巻いたら、軽快に飛び出します。


父親は、滝に打たれて、「ブラブラ」と遊んでいました。


童心に帰って楽しいのか、呼んでも返事は返ってきません。


リードが重さに耐えきれずに、千切れ、ドボンと落ちます。


滝壺からびしょ濡れになって上がってきますが、またやりたいと、無邪気に上がっていきます。


隣にいたはずの母親も、次は、自分の番だと駆け出し、キノコが生えた太い木を見つけて、軽快に木登りをします。


お猿さんになって、ウッ、キッキー。


振り子のように、「ブラブラ」と遊びます。


ローズマリーは、ケープに頬ずりすると、窮屈そうなリードを首輪ごと外してあげます。


ケープを枯れ葉の絨毯に寝かせ、首輪に繋がれたリードを手に、背の高い木を見上げます。


すると、木々の向こう側から鳴き声がして、乳白色の鹿が、二頭姿を現します。


どちらも気高く、一頭の角は白銀色で、天を見上げています。


神の化身なのでしょうか。


誘われるように歩いて近付いていきます。


代償に白い帽子を取り、捧げます。


すると、風が強く吹き、白い帽子を森の奥深くに攫っていきます。


二頭の鹿は、白い帽子を追いかけ、ローズマリーは鹿を追います。


木々をかきわけて、森を上がっていくと、開けた場所に出ます。


崖と崖を繋ぐ、白銀の吊り橋は、風にそよいでいます。


踏み外せば、蒼白の滝に繋がっていそうです。


吊り橋の向こう側に、鹿は駆けていったのです。


勇気を出して手をかけます。


下には白い水が流れていて、足下がすくみます。


落っこちないように、吊り橋にリードを通し、体の一部分に巻き付けます。


命綱をつけていれば、転落はしません。


眩しい光の中を勇気を出して、一歩を踏み出しました。


橋を渡りきった頃には、だいぶ時間が経っていたのか、鹿は見当たりません。


森は奥深くまで続いていますが、この先は暗く、木々がオバケに見えて、異様な気配が漂います。


手を差し出すと、風が途切れていて、思わず手を引っ込めます。


この先には、行きたくありません。


自分も木のオバケになってしまうのではないかと、不安にかられます。


すると、後ろから呼び声がします。


振り返ると、両親が吊り橋の向こう側から、手招きをしています。


迎えに来てくれたのです。


家族のもとに走り出し、橋を慌てて駆けていきます。


橋がグラリと揺れて、体が斜めに傾きます。


すると、父親が手を掴んでくれます。


後ろから引いてくる命綱が引き留め、まるで、いっては駄目と言っているかのよう。


それでも家族と一緒にいきたいという、強い思いが、命綱を解きます。


吊り橋には、赤いリードが「ブラブラ」と揺れ、イヤリングは木の足下に落ち、リボンは濡れています。


三人は、大事な家族、ケープを捜します。


「ケープ、滝壺で泳いでいるのかい」


「ケープ、木登りは楽しいわよ」


「ケープ、吊り橋は揺れて怖いよ」


ケープは、悪夢から眼を覚ますと、フラフラと森から出ていきます。


森の出口まで、あともう少し。


もう少しで・・・。


「見ーつけた」


ローズマリーは、家族と仲の良い、


しあわせな子どもでした。



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