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ふこしあ  作者: 山口かずなり
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虫歯になった子ども・ルール

四十二人目の子ども


「虫歯になった子ども・ルール」


ルールは、感電ツインテールの似合う、ぽっちゃりとした子どもです。


決まり事を守らない性格で、こうしなさいと言われても「はい」が言えません。


母親から、「家に帰ってきたら、手洗いうがいをしなさい」と言われても、菌だらけの手で、おやつのチョコレートにガブリと噛みつき、口元を汚して、ニカッと歯を見せます。


泥色がべったりとくっついて、岩場のよう。


母親から「歯を磨きなさい」と言われても、柑橘ジュースをがぶ飲みして口をグチュグチュ、ゴクン。


おまけに口でオナラをきかせて下品です。


母親は、あきれた顔で「パパにそっくり」と言い、チョコレートの銀紙を片付けます。


ルールは、母親が見ていたモノクロ映画を子ども向けの映画と取り替えると、床に寝そべり、足でポップコーンの袋を引き寄せます。


扉が大きな音をたてますが、気付きません。


四角いモノクロ映像に釘付けです。


縞模様のトラとウマが喧嘩をしながら、立ち入り禁止の看板を派手に倒します。


足場の悪い工事現場には、働き者のキリンがユラユラと目立ち、今にも倒れそう。


トラが、ウマの顔を目掛けて、トラックを投げつけます。


ウマが避けて、あっかんべー。


その後ろでは、キリンがぐらぐらして、2匹は不安な顔を見合わせ抱き合います。


ガッシャーンと2匹が、「ぺしゃんこ」


ルールは、大笑いをあげていました。


こんなズボラで不衛生な子ですが、友だちはいます。


ルールが公園に出掛けると、大抵の子どもは、オーガが来たと逃げ出しますが、毛先の傷んだ女の子と、よくお腹を壊す男の子とはウマが合うようで、三人はハイタッチをします。


ゲラゲラと笑ってから、いつまで笑っているのかと二人の顔を引き締めます。


ルールが仁王立ちになると、決まり事を守れているか訊いてきます。


女の子は、「今日も鏡を見ていません、だから歯を磨いていません」と敬礼をし、ルールは、「あたしらに可愛さなんていらない、口を開いて臭い息で黙らせる、その破壊力こそが、この公園を支配するのよ」と、次に男の子の方を見ます。


男の子は、か細い声で「今日も手洗いうがいをしていません、だからお腹が痛いです」とお腹をおさえます。


ルールは、「痛みに耐えてこそ、あたしらは存在する、痛くないと、しんでるのよ」


男の子の体を突き飛ばし、両手を天高く掲げます。


すると、口の中が「ズキン」と痛みます。


思わず可愛い声が漏れ、二人は、ルールの顔を見ます。


ほんの少し、左右の頬の辺りが腫れているように見えます。


誰かに何かされたの?と心配そうに訊きますが、こんな乱暴な子に歯向かう子どもは、いません。


いるとすれば、内側から召喚される悪魔です。


ルールには、心当たりがありましたが、そこには触れません。


ただ、自分たちは、まだ生きていると、オーガの顔になり、二人を追い回します。


その間もズキズキと痛みますが、ずっと我慢していました。


夕暮れになり家に帰ると、泣きそうな顔で母親のドレッサーの扉を開き、鏡の前、大きく口を開きます。


左右の親知らずの前辺りが、黒く、数匹の悪魔がゲラゲラと笑います。


ドリルで削り、ツルハシで何度も砕くのです。


眼を見開き、悲鳴を上げます。


買い物から帰ってきた母親は、ルールにドーナツを買ってきたと言いますが、相変わらず返事がありません。


その日、ルールは、母親と一緒に久しぶりに歯を磨きます。


ですが、もう手遅れ。


痛みは増していきます。


母親は、二本の歯ブラシを丁寧に洗い、鏡に映る我が子に言います。


「決まり事は、あなたを守る為にある、たまにでもいい、大人の言うことは聞きなさい」


ですが、ルールは、痛いと言うだけで「はい」とは、言いませんでした。


曇りの日。


母親に歯医者に行こうと引っ張られますが、その様子を他の子どもに見られては、支配者の貫禄が失われると、癇癪を起こしながら家を飛び出します。


「明日は泣いても連れて行く」


母親は必死に叫びます。


公園まで逃げてくると、毛先の痛んだ女の子と、よくお腹を壊す男の子がルールを待っていました。


二人は、ルールがいない間に公園の縄張り争いに負けたと話します。


いつもなら殴り込みに行くところですが、歯が痛く、それどころではありません。


今はこの痛みを吹き飛ばす程の、派手な遊びがしたいと、二人を引き連れて、新しい遊び場を探します。


どの公園も他の子どもで賑わっていて、よそ者の入る隙間はありません。


町から離れていくと、段々と人通りが少なくなっていきます。


しばらくして、三人の足が止まります。


「立ち入り禁止」と書かれた看板が通せんぼうをして、頭の中で、母親のああしなさい、こうしなさいと声が廻り、ルールは髪をかき乱します。


二人は、心配そうに看板を見つめます。


ルールは「決まり事は破る為にある」と、その先に行ってしまいました。


二人は後を追います。


足場の悪い道を歩いて行くと、工事現場に出ます。


大きな砂場には、誰もおらず、遊具のような黄色いクレーンが風にぐらつきます。


砂場に足が埋もれ、重いクレーンが倒れてきたら、ぺしゃんこ。


大変危険な場所なのです。


しかし、子どもは遊びの天才。


どんなに危険な場所でも、見方と思考を変えれば、遊び場に変わります。


三人は、眼を輝かせます。


砂場でもろい塔を作り、クレーンの足下で追いかけっこ。


ルールが必死に二人を追い、その間、痛みが紛れます。


二手に分かれ、女の子が砂場の向こうに逃げ、男の子はクレーンの足下に隠れます。


女の子の方を追いかけていると、砂場に足を取られて前に転びます。


すると、突風が吹いて砂嵐に巻き込まれます。


二人は、見えなくなったルールに叫びます。


ガシャーンと騒音が響いて、風が去ると、二人は、倒れてきたクレーンに恐る恐る近付きます。


見ると、キリンの首が横たわり、あちこち破損しています。


二人は、クレーンの前に転がったルールに痛くなかったかと、心配します。


それでも、「はい」とは、言えない子。


歯が飛び抜け、上手く喋られません。


二人は、砂場に散らばった虫歯を拾い上げます。


それは、ルビーのように、真っ赤。


「もう痛くないね」と顔を見合わせます。


ルールは、痛みを乗り越えられる、


しあわせな子どもでした。



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