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ふこしあ  作者: 山口かずなり
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深酒の子ども・リキュール

四十一人目の子ども


「深酒の子ども・リキュール」


リキュールは、頭が酒瓶の形をした、ポンチョを着た子どもです。


悩みの数だけ銀の髪を抜き、眼はうつろです。


幼稚園ではオオカミのように遠吠えをあげるので、仔羊の群れは近寄りません。


昼食の時間になると、仔羊の群れは長細い食卓の前に用意された椅子に腰掛けます。


リキュールは、先生の手で群れの隙間に入れられ、椅子に腰掛けます。


食卓に運ばれてきたのは、給食ですが、はじめに眼に入ったのは「ピーマンの肉炒め」です。

これは何だろうと一口かじると、舌が飛び出る苦さ。


混ざる焦げた肉がおいしく感じられる程に、これは不味いのです。


仔羊の群れも苦そうな顔でかじっています。


食べ終わらないと、ここからは離れられません。


しばらくして、リキュールの席に先生が来て驚きます。


皆が苦手な苦手なピーマンを一番に食べ終わったからです。


先生に頭を撫でられます。


すると、隣の仔羊がリキュールの足下を指さします。


お皿は綺麗ですが、床にピーマンが散らかり汚いのです。


先生は、食べ物を粗末にしたら、いつの日か大事なモノまで捨ててしまうと、皆に言い聞かせます。


仔羊はうるさく鳴き、リキュールはこめかみの髪を引き抜きました。


一人で絵本を読んでいる時も、あの仔羊の顔が浮かび、投げてしまいます。


母親が迎えに来て、家に帰る時も、考えることは今日の出来事ばかり。


皆の前で笑いものにされたことは、一生忘れないと、頭の髪を引き抜きます。


家に帰っても、ずっと黒いほこりがポンチョについています。


階段を上がり自分の部屋に閉じ籠もっても、ほこりが気になり、苛立ちがつのります。


夜になると、眠りたくなくてもベッドに寝かされ、部屋には絵本もありません。


天井の模様が怖い顔で見下ろしています。


このままでは眠れません。


そっと階段を降り、1階の扉の隙間から覗くと、母親が薄暗い店で客と酒を飲み交わしています。


大人たちはそこで愚痴をこぼし、足下にはつまみを散らかし汚いのです。


それでも大人はしあわせそう。


頬を赤く染めて、千鳥足で踊ります。


カウンターの奥には多種の綺麗な瓶が並んで眼の保養。


あれは、魔法の飲み物、酒。


大人が飲めば夢心地ならば、子どもが飲めばどうなるのか。


リキュールは、店の中が静かになると、扉をそっと開きます。


床に眠る知らない大人たちを跨いで、この店の中で一番綺麗な酒瓶を両手で掴みます。


そのラベルに書かれた文字は読めません。


おいしいと書かれている、そう思いました。


部屋に持ち帰り、一口飲みます。


レモネードのようには甘くはありませんが、リキュールの舌に合います。


舌をクチャクチャと鳴らしながら酒瓶を枕の下に隠します。


すると、体が火照りはじめ、部屋が歪んで見えてきます。


これが夢心地という感じなのかと、いい顔を浮かべます。


そのままベッドに入り、眠ってしまいました。


気が付くと朝です。


やはり、酒は魔法の飲み物。


気が付くと眠り、飲んでいる間は嫌な事も忘れられるのです。


リキュールは、酒瓶をギュッと抱きます。


それからも嫌な出来事があると、家に帰ってきては、こっそりと酒を飲みます。


仔羊にメェメェと鳴かれた時に一口、先生に嘘がバレたときに二口。


母親が唇で酒を注いだ時に三口。


父親がいないことに気付いた時に、四口飲みました。


酒を飲んでる時は、ヘンテコな動物たちに囲まれて夢心地。


さめれば嫌な現実が見えてきて、遠吠えをあげます。


シラフには戻りたくありません。


酒瓶を両手で掴み、「この酔いが永遠に続きますように」


そう願いながら、酒を飲み干します。


グビグビ、グビグビ。


どこからかヘンテコな動物がやってきて言います。


「リキュール、よく頑張ったね、大好きだよ」


カラの酒瓶は床に転がり、ポンチョを脱いで、千鳥足で踊ります。


その宴は、誰もが泣くほどに楽しいのです。


リキュールは、宴を楽しめる、


しあわせな子どもでした。



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