ムシが大好きな子ども・ヨーンペイン
三十九人目の子ども。
「ムシが好きな子ども・ヨーンペイン」
ヨーンペインは、花柄のスカーフを頭巾にした、手足に包帯を巻いた子どもです。
虫が大好きで、カブトムシを飛行機にして、アリの巣穴に砂糖の雨を降らせます。
庭に出ると、花柄のスカーフを解いて、てるてる坊主になります。
すると足首がくすぐったく感じ、誰が付けたのか、赤く腫れています。
クスクスと微笑むと、ポシェットから包帯を取り出し、足首にチョウを作ります。
家に帰ると、両親に訊かれます。
「それは何?」
「ファッションよ」
クスクスと微笑みながら、自分の部屋に帰ります。
ヨーンペインは、それを「キスマーク」と呼んでいました。
「またつけてくれるかしら」
眠る前に、窓に隙間を作ります。
すると、母親が隙間を見つけて、窓を閉じます。
「悪い虫が入ってきたらどうするの?」
ヨーンペインは、バタンと閉められる扉に、あっかんべー。
ベッドの上、ダンゴ虫になって眠ります。
その夜、夢を見ます。
誰かが窓の隙間に手をかけて、入ってきます。
忍び寄る影は、見下ろし、頬をくすぐります。
眼を覚ますと、お腹の膨れた女が立っています。
「あなた、だれ?」
女は、ヨーンペインの手を取り、お腹に触れさせます。
ドクンドクンと動きます。
赤ちゃんがいるのです。
「あなたのおかげよ」
「もしかして、あなたがキスマークをつけたの?」
「ええ、そうよ」
ヨーンペインは驚きます。
「キスをすると、赤ちゃんが出来るの?」
女は、微笑みます。
「わたし、あなたのことが気に入ったの、この子たちが無事に生まれたら、水際まで来てくれる?」
「うん、必ずいくわ」
ヨーンペインは、女とゆびきりをしました。
朝が来て眼を覚ますと、窓の外で小鳥が陽気に歌います。
あれは夢だったのか、頬をかきます。
リビングに行くと、母親が、朝食にサンドイッチを出してくれます。
かじると、食べ損ねた「マッシュポテト」がこぼれます。
野菜ジュースをゴクゴクと飲み干して、手を合わせます。
「ごちそうさま」
ヨーンペインは、庭に出ようとすると、母親に呼び止められて、香水を振られます。
母親は、女の子は香りも大事よと微笑みます。
その香りはきつく、大変苦手です。
頬を膨らませて、庭に出ます。
いつものように花柄のスカーフを解いて、てるてる坊主になります。
ここが水際ではないからか、女の人は来てくれません。
けれど、庭のどこを探しても水際など無いのです。
しばらくすると、母親が庭に出てきて、あちこちに殺虫剤を噴射します。
ヨーンペインは、その光景を見て、小石を拾って投げつけます。
母親は、驚きます。
「どうして、こんな危ない事をするの?」
けれど、聞く耳を持ちません。
走って家の中に入り、ベッドの上で、ダンゴ虫になります。
部屋に閉じ籠もったまま、時計の針がグルグルと回ります。
両親は心配します。
母親は、トレイに夕食を乗せて、扉の横に置きます。
「起きたら、全部食べるのよ」
その夜、怖い夢を見ます。
防護服を来た人間たちが、女目掛けて殺虫剤を噴射しています。
「やめて!!お腹に赤ちゃんがいるのよ!!」
ならば尚更だと、弱り果てた体にトドメをさします。
足元に転がってきたのは、見覚えのある殺虫剤。
ヨーンペインは、眼を見開きました。
次の日も、母親は庭に出てきて、殺虫剤を噴射します。
こっそり後をつけていくと、庭の倉庫にしまいます。
母親が倉庫から離れた時がチャンス。
殺虫剤を持ち出します。
家の裏にあるゴミ箱に捨てようとします。
こんな近くでは拾われてしまいます。
両親のいない、遠くに捨てに行きます。
段々と家から離れていきます。
水際が見えてきます。
きっと、ここならバレません。
ここに捨てます。
すると、水際の向こう側、女が立っているのが見えます。
周りには、百人の子どもが笑っています。
愛らしい笑顔につられて、笑います。
女は、ヨーンペインを見つけると、子どもたちに言います。
「あの方よ、わたしたちを救ってくれたのは、さぁ、おいきなさい」
子どもたちは、ありがとう、ありがとうと、体に群がります。
大好きなものが、いっぱい、いっぱいで、もう痛いのです。
ヨーンペインは、大好きなもので、頭が湧いた、
しあわせな子どもでした。




