子役に選ばれた子ども・ユニ
三十八人目の子ども
「子役に選ばれた子ども・ユニ」
ユニは、長くゴワゴワとした髪に、沢山の蛾がくっついた子どもです。
継ぎ接ぎのドレスを着ていて、サファイアの眼が輝きます。
町の中を歩いていると、ある男が話し掛けてきます。
君は、良い子役になれる、そう言って、ユニを摘み取ります。
連れて来られたのは、外観美しい屋敷です。
随分遠くまで来たのでしょう。
帰り道が分かりません。
ユニは、演技を学びます。
泣きたい時に笑い、笑いたい時に泣きます。
屋敷のどこに行っても、叱られる事はありません。
ただ、窓から外に出ようとすると、番犬が吠えます。
日の光を浴びれるのは、ほんの一握りの子役だけなのです。
ユニは、夜の舞台に立ち、乞食から妖精、操り人形を演じて踊ります。
ですが、日の光は遠く、いつも誰かの影の中、誰もユニの事には気付きません。
サファイアの眼だけが、影の中で光ります。
ある日、ユニは、部屋に呼ばれます。
待っていたのは、見知らぬ男です。
その男は、眼つきの悪い芸人です。
相方との掛け合いが上手くいかず、直ぐに別れたと言います。
男は、野良犬を相方にしようとしましたが、愛情が無く指を一本食い千切られ、鳥には飛んで逃げられます。
人間も動物も言うことを聞いてくれません。
悩んだ結果、どんな役でも演じられる子役ならば、自分だけの人形を演じてもらえると、この屋敷にやって来たのです。
男は、言います。
「僕だけの人形になれば、君は日の光を浴びれる」
ユニは、この屋敷から出ていけるならばと、その手を取りました。
男は、自分の家にユニを連れ帰ると、ある約束をさせます。
一つ目は、人前では人形でありつづけること。
二つ目は、自分から誰かに触れてはいけないこと。
三つ目は、背中に合図があるまで、決して喋らないこと。
ユニは、その夕暮れ、窓から見える景色を眼に焼き付けて「笑いました」
男と一緒に外に出る時は、足の生えた人形ケースで運ばれ、親切に開けられた穴の中から、町を眺めて、呼吸をします。
見覚えのある景色ですが、人形でありつづけて、叫びません。
約束を破ると、日の光が見れなくなると、体を丸めます。
楽屋に着いて、人形ケースから出してもらうと、青リンゴの頬を赤く色付けて、長い髪に沢山のリボンを付けてもらいます。
もう誰もユニだとは気付きません。
男の手に抱き抱えられると、舞台の小さなテーブルの上に座らされ、ユニの長い髪の中、背中に指を突きつけられます。
ユニは、その合図が来るのをずっと待っていました。
「私はユニ、この男に誘拐されたの」と、家の窓から見える景色のことを喋り出します。
「そんなデタラメな事は言っちゃいけないよ」と、男は苦笑いを浮かべます。
ユニは、「デタラメじゃないわ、あんたはひとりでは何も出来ない、ロクデナシよ」と、男と交互にブラックジョークを飛ばして、観客を笑わせました。
ただ、その面白さが伝わらず、怯えている観客もいたので、男は笑いながらも、内心怒っていました。
舞台が終わり家に帰ると、ユニは、リンゴ色の頬を強く打たれます。
床に転がっても、馬乗りにされても、人形でありつづけます。
こうしていれば、いずれ日の光を浴びれる、そう信じて、手足に巻かれた糸を切りました。
男は、ユニの迫真の演技を見て、赤いまだら模様の床に、人形を見つけます。
すると、扉が強く叩かれて、男は我に返ります。
慌てた様子で窓から出て行きます。
鍵を開けて入ってきたのは、二人の刑事です。
転がったままのユニを見つけると、慌てた様子で抱き抱えます。
刑事は、呼びかけます。
それでも人形でありつづけます。
しばらくして、白いベッドに寝かされます。
サファイアの眼に光が当てられ、青いリングが輝きます。
その光は、待ちに待った日の光でした。
ユニは、日の光を浴びる、
しあわせな子どもでした。




