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ふこしあ  作者: 山口かずなり
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髪をかきあげる子ども・メロウ


三十五人目の子ども


「髪をかきあげる子ども・メロウ」


メロウは、顔立ちの整った、家柄の良い子どもです。


町の女の子たちからは、王子さまと呼ばれています。


メロウが、夕焼けの噴水前で指をパチンと鳴らすと、広場にスポットライトが当たり、どこからか情熱の歌が流れます。


女の子たちは、色とりどりのスカートをクルクルと咲かせながら、メロウのお姫さまになろうと、踊り子になります。


足の指が赤く腫れて、何度も躓いても、その先にある王座の為に、クルクルと咲き続けます。


メロウは、その光景を見て、内心、あまりにも滑稽で笑っていましたが、手の甲を首に当て、考えます。


「そんなに僕と踊りたければ、みんなが同時に踊るのではなく、一人一人おいでよ」


女の子たちは、そのことを聞いて、どの女の子が、一番最初にメロウと踊るかを決めることにしました。


メロウは、密かに、にやりとします。


狙いは、二人っきりになることです。


沢山の女の子と、同時に踊っていては、お目当ての女の子がいても、周りの眼を気にしてしまい「味見」が出来ないのです。


女の子たちの中で話がついて、メロウの前に、町一番の可愛い女の子が、スカートをカーテンのようにして、おじぎをします。


他の女の子たちの靴のかかとを踏みつけて、ここに立っていると思うと、その作られた微笑みに、背筋が凍ります。


ですが、味見をしたいだけのメロウには、些細なこと。


女の子は、メロウの前でスカートをクルクルと咲かせて踊ります。


メロウも薔薇の炎のように踊り、今夜のお相手は君だよと、耳元に囁いて、屋敷に招待します。


メロウは、女の子と一緒に、テーブルで赤いジュースを飲んでいる時も、自分の脚を絡めたくて、たまりません。


女の子の話など上の空で、考えることは卑しいことばかりです。


屋敷のバルコニーに出て、星空を眺めながら、もっと、君のことを知りたいと、女の子を寝室に連れ込みます。


その夜、一匹の狼が遠吠えをあげて、青い爪を立てます。


長く待って、あっさりと終わった味は、アップル味。


女の子は、ベッドの上で、恍惚の表情を浮かべて、お姫さま気取りで寝転がっていました。


メロウは、背を向けて、さっさと襟を整えます。


女の子が、頬を桃色に染めていると、メロウが言います。


「今夜のことは二人だけの秘密だよ、いいかい、誰にも言ってはいけないよ」


女の子は、乙女のように頷きました。


それからも、メロウは、女の子を一人一人踊らせて、屋敷に招待します。


月を眺めては、プリン味。


暖炉の火を眺めては、ザクロ味。


水に酒を混ぜては、ブドウ味。


庭で寝そべっては、チョコレート味。


家柄の良さを見せては、バナナ味。


味見だけをして、家に帰らせます。


町の女の子たちは、自分だけが、メロウのお姫さまになれたと、信じていました。


メロウは、この味見がやめられません。


けれど、味見をしたまま、食べ切ってもらえない女の子たちは、自分たちのことが心配になりました。


メロウに相手をされなくなった女の子は、ほんの少しずつお腹も出てきます。


女の子の父親は、うちの娘を太らしたなと、メロウのことを捕まえて、強く叱りました。


一番酷かった言葉は、「死んで詫びろ」です。


メロウは、涙眼で、突っ立っていることしか出来ませんでした。


周りの大人たちからも白い目で見られるようになり、町には、こんな噂が流れ始めます。


「あの坊ちゃんは、女たらし、屋敷は立派だが、住んでいる奴は、品がない」


そのことを知ったメロウの父親は、激怒して、メロウの頬を強く打ちます。


「メロウ!この私の顔に泥を塗る気か!屋敷の金が、日に日に失われていく、どうしてくれるんだ!」


メロウは、頬に傷をつけて、今にも泣きそうです。


「あれ程、子どもは作るなと言っただろ!」


メロウは、それを聞いて、どうしていいのか分かりません。


涙がポロポロと溢れてきて、父親の脚に、泣きつきます。


「離れろ、この馬鹿息子!」


「助けてください、父上!」


父親は、メロウの襟首を掴んで、脚から離すと、乱暴に引っ張り、寝室に閉じ込めます。


「ここが好きなら、ずっとここにいろ!


逃げ出したら、もう一発、もっと強く打つからな!」


メロウは、泣き叫びます。


「父上!ここから出してください!これから、大事な約束があるのです!」


父親は、怒りながら廊下を歩きます。


メロウの泣き叫ぶ声など気にしません。


自分の寝室に戻り、亡き妻の写真を眺めながら、首元に手を当て、泣きたいのは私だと、眼を潤ませます。


「やはり、メロウは私に似ていて甘すぎる、あの子がいては、屋敷は傾き、やがては崩れる」


「これからどうすれば‥」


ドン!


すると、屋敷の外から大きな物音がします。


父親が外に出ると、屋敷の花壇の上で何かが、ピクピクと動いているのを見つけます。


「ああ、なんて事を」


父親は駆け寄り、メロウの身体を揺さぶります。


何度もメロウと呼びますが、返事はありません。


どんな事も我慢が出来ない子どもです。


もう逝ってしまったのです。


厄介な種だけをばら蒔いて死ぬとは、この感情を表す言葉はありません。


父親は、うなだれます。


メロウのズボンのポケットからは、手帳がはみ出ています。


遺書のつもりでしょうか?


手に取って開いてみると、手帳には、1ページずつに女の子の名前、日付け、場所と時刻、これからの予定が書かれています。


今日の日付けのページには、アレマーナ、噴水広場、2時。


屋敷の窓から抜け出して、会いにいく。


父親は、呆れて手帳を閉じます。


メロウは、このアレマーナに会いに行こうとして、2階の窓から落ちたのです。


あれ程きつく叱られても、頭の中には女の事しかなく、不憫で仕方がありません。


これでは、道草をせずに一人で天国に行けるかも心配になります。


途中で顔色の悪い女の子を追いかけているのが眼に浮かび、彷徨った末に、屋敷に帰ってこられては、大変迷惑です。


父親は、メロウを抱き抱えて、屋敷の暖炉の前、白クマの敷物の上に寝かせます。


メロウは、女の子のもとへ行こうとして死んだので、未練があれば、手帳に書かれた女の子全員と、予定通りに過ごせなかったことです。


父親は、考えた末に部屋から出て行きます。


庭の倉庫に向かい、ギザギザの刃を右手に取ると、メロウのもとに戻り、服を脱がせます。


そして、これは、一番にいらぬものと、萎れたものを左手で引っ張り、刃を当てると、そのままギコギコと動かし、白クマの敷物に、血しぶき模様をつけました。


それから父親は、メロウが迷惑をかけた家の玄関前に贈り物を届けてまわります。


女の子の家族は、贈り物に染み付いたカルアの香りに気付き、箱を不安そうに開きます。


すると、箱の中身を見て、びっくり仰天。


腰を抜かしてしまいます。


ある家族には、それが頭のように見え、別の家族には腕のように見え、他の家族には脚のように見えます。


こんな贈り物を届けたのですから、父親は、精神が壊れたと病院送りです。


それでも、父親は、狭い部屋の中で乱れた髪をかきあげます。


そして天井を見上げて、密かに笑います。


一方メロウは、父親のおかげで、体が一つではなくなったと、大喜び。


頭、両腕、両足と、バラバラに動かせるようになります。


頭は口付けを交わして、両腕は二人の女の子に掴まれて、両足は、二人の女の子と歩きます。


天国のような日々を満喫しているので、もう屋敷には帰っては来ないでしょう。


メロウは、女の子からは恋されてばかりでしたが、父親からは、馬鹿息子と叱られ、愛される、


しあわせな子どもでした。


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