満月になりたい子ども・ムーン
三十四人目の子ども
「満月になりたい子ども・ムーン」
ムーンは、まん丸な顔をした、チリチリ頭の子どもです。
いつもお気に入りのフリルのエプロンをつけて、町に出掛けます。
その笑顔は、周りの暗さにより、目立ちます。
町を歩いていると、消えた街灯の下、キツネ眼の夫婦が待っていました。
「恵まれない子どもに恵みを」
そう弱々しい声で、行き交う大人の足を止めさせて、言います。
「この町から離れた場所に、貧しい村がある、その村には、毎日同じ服を着た、痩せた子どもがいて、病にかかり死にかけている」
キツネ眼の夫婦は、そんな子どもたちに、少しでも恵みをと、大きな募金箱を胸に抱えて、悲しそうでした。
優しい大人は、この恵みが、子どもたちの服やパン、薬になればと、募金口に入れて、去って行きました。
キツネ眼の夫婦は、「ありがとう」と言いながら目元を隠します。
ムーンは、その言葉が大好きでした。
母親にお使いを頼まれて、ミルクと砂糖をちゃんと買ってきた時も「ありがとう」と言ってもらえたし、父親の肩を叩いた時も、「ありがとう」と言ってもらえたのです。
その時、自然と口角が上がり、誰かを照らす満月になれるのです。
あの募金口に、恵みを入れるだけで、また満月になれるならばと、ポケットを探ります。
取り出したのは、手作りのクッキーです。
ですが、募金口には入りません。
キツネ眼の夫婦は、顔を見合わせて、クスリと笑います。
「優しいお嬢ちゃん、それは入らないよ、恵みとは、お金のことさ」
「クッキーは、お腹を空かせた子どもにでも喰わせてやりな」
キツネ眼の夫婦は、募金箱を抱えたまま、他の人の所に行ってしまいました。
「ありがとう」とは、言ってもらえません。
キツネ眼の夫婦は、恵みとは、お金のことだと言っていました。
つまり、お金を渡せば、「ありがとう」と言ってもらえるのです。
ムーンは、家に帰ると、お菓子をいっぱい食べます。
カラになった缶を用意して、紙には、恵まれない子どもに恵みをと書いて、缶に貼り付けました。
ムーンは、缶を抱えて、行き交う人を呼び止めて、キツネ眼の夫婦の真似をします。
優しい大人は立ち止まってくれ、缶にお金を入れ、いじわるな大人は鼻で笑っていました。
重くなった中身をキツネ眼の夫婦に見せると、その眼が輝きます。
ムーンは、笑顔で言います。
「このお金で、服を買って、食べ物を食べさせ、お薬を買ってあげて」
キツネ眼の女は、眼を潤ませます。
「本当に優しいお嬢ちゃんね、でもこのお金は受け取れないわ」
「おい、何言ってんだ」
「あんたは、黙ってな」
キツネ眼の女は、優しい顔になって言います。
「そのお金は、あんたが困った時に使いな」
キツネ眼の女は、そう言うと、キツネ眼の男の耳たぶをひっぱって、ムーンから離れていきます。
「こことは違う場所で、仕事をするよ」と、そう聞こえます。
ムーンは、缶を抱えたまま取り残されます。
小さくなっていく、キツネ眼の夫婦は、遠くで立ち止まり、振り返り叫びます。
「ありがとうね!!お馬鹿なお嬢ちゃん!!」
ムーンは、満月になれました。
「きっと、今、わたし、キラキラしている」
鏡になるもの探して、河川に行くと、水面が汚れています。
これでは、自分の顔が映りません。
浮かんでいるのは、大人たちの忘れ物です。
ゴミは、ゴミ箱に捨てる、そんな事も学ばなかったのでしょうか。
ムーンは、缶を抱えながら、走って家に帰ります。
缶を食卓に置いて、代わりに大きな袋を持って、河川に向かって走り、ゴミ拾いを始めます。
フリルのエプロンを汚しながら、「これは、誰の忘れ物?」と、首をかしげます。
汗を拭いて帰ろうとすると、空はオレンジ色に染まっています。
すると、河川に、見た目だけが大人な団体客が、お酒の瓶を振り回して、やってきます。
また川に飲み干した瓶を投げ捨てて、何だか子どもみたいです。
ゴミを捨てても、誰かが片付けてくれるから、捨ててもいい、そう思っているのでしょう。
子どもには、しっかりと教えてあげないといけません。
ムーンは、ゴミの詰まった袋を団体の前で開きます。
「これは、あなたたちの忘れ物よ、ゴミは、ここに捨ててね」
見た目だけが大人な団体客は、鼻をつまんで、ポカンと口を開けていました。
誰も「ありがとう」とは言ってくれませんでしたが、ムーンは、水面に、自分を映すように、スキップをして帰りました。
ムーンは、その夜、あつあつのステーキを食べている時、両親に訊かれます。
「お金の入った缶を見つけたぞ、どこかに寄付でもするのか?」
「どこでエプロンをよごしたの?川でゴミ拾いでもしてたの?」
ムーンは、笑顔で、募金のことや、ゴミ拾いのことを聞かせます。
ムーンが、あまりにも嬉しそうなので、両親は、笑顔で聞いてあげます。
でも、本当は、この性格が心配でした。
優し過ぎることが、その人たちの成長を止めていることをムーンは、知らないのです。
ある晴れた日。
両親は、ムーンをピクニックに連れて行きます。
山でシートを敷いて、バスケットから、おいしいものを取り出します。
ムーンは、母親の作ったサンドイッチとホットドックを両手に、モグモグと食べます。
もう、お腹がいっぱいです。
両親は、お互いの鼻についた、ケチャップを指ですくって、笑っていました。
こうなると、ムーンは、お邪魔です。
ここで両親を二人っきりにすると「ありがとう」と言ってもらえる気がして、膨らんだお腹のまま、山の中を散歩します。
すると、山の奥から声がします。
声がした方に、そっと行くと、シートが雑に敷かれ、黒い小グマがピクニックの最中です。
ムーンは、小グマに、ポケットから取り出した、クッキーを差し出しながら近付きます。
「これ食べる?とてもおいしいの」
小グマは、首をかしげます。
すると、辺りが暗くなります。
ムーンは、ゆっくりと、振り返りました。
両親は、ムーンがいないことに気付いて、慌てて探し始めます。
すると、母親が、山の奥で、ムーンを見つけます。
そこには、満月を抱えた、黒いクマが待っていました。
黒いクマは、言います。
「ありがとう」
ムーンは、みんなを照らす、満月になれた、
しあわせな子どもでした。




