呪文を唱える子ども・ミラ
三十三人目の子ども
「呪文を唱える子ども・ミラ」
ミラは、金色カールを頭のてっぺんで結んだ、噴水頭の子どもです。
スパンコールの散りばめられた、バレリーナのような服を着ています。
ミラは、生まれた頃から魔法使いです。
ガラガラから持ち替えたステッキを媒体にして呪文を唱えられます。
呪文は、誰の眼にも見えていますが、寄ってきた虫を払うように、大抵の人は、思いやりが邪魔をして、上手く唱えられません。
魔法使いなど空想の生き物だと、腐ったパンで挟んで、ぐちゃぐちゃにして、ゲロを吐くのです。
しかし稀に、ミラのように思いやりが欠けていると、呪文はスラスラと唱えられます。
だけど、どんなことにも限度があります。
家の中で、ガシャン!!と何かが割れると、だいたいの犯人はミラです。
母親が叱ろうとすると、怒っていることを忘れさせ、割れた食器の後片付けをさせ、父親には高級ドールハウスをねだり、財布の中身のことで両親を喧嘩をさせます。
盗んできた猫は白では可愛くないからと、色々な色にして遊びます。
ミラが呪文を唱える度に、家族は泣いてばかりです。
「こんな退屈な家は大嫌い」
泣いてばかりの家族にパズルの呪文を唱えます。
父親を愛人のもとへ飛ばして、大男に殴らせ、母親をロープの向こう側でおばあさんに会わせてあげます。
ミラは、継ぎ接ぎの猫を膝の上に寝かせて、車に揺られて考えていました。
「あたしの普通は、みんなの普通とは違うのね」
あっけらかんに、そう呟いて、着いた先は、寄宿学校です。
壁に囲まれた唯一の出入り口は、秘密の呪文を唱えなければ開かれません。
お決まりごとが好きな先生がやってきて、あいさつをします。
ミラは、学校内を案内されて、子どもたちに見られます。
目立つ容姿に、「おとぎの国の住人みたい」とくすくすと笑われます。
先生が離れていけば、ミラは、一人です。
「時間通りにここで勉強をして、ここで友だちを作ってね」
ミラは、そんな決まり事が大嫌いです。
決まり事は破る為にあると、みんなが勉強をしている時に、継ぎ接ぎの猫に鉛筆を8本突き刺して遊び、友だちは、この子よと、継ぎ接ぎの猫の首にヒモを巻き付けて、天井から吊します。
そんなおぞましいことばかりをしていますから、ある日、群れた子どもの一人に言われます。
「トランプ遊びをしましょう」
それは、簡単なババ抜きです。
それぞれペアができて、あぶれて取り残されたのは、当然のようにジョーカーです。
普通の子どもなら負けを認めて泣くのですが、ミラは、ジョーカーは、どのゲームにも一枚しか存在せず、選ぶゲームによっては、強く、人と違うことは、チャーミングだと言います。
子どもたちは、ミラに、一人ぽっちのくせに生意気だと、大事なステッキを取り上げて、それを学校内に隠します。
ミラは必死で探し、見つかるまで、見た目を馬鹿にされ、自分の部屋で見つけた頃には、胸元が水で濡れています。
継ぎ接ぎの猫は、首つりをしているから、かわいいのに、ヒモが切られて、ぐったりとしています。
なんて、ヒドイ。
これが、普通の子どもの遊びならば、普通には普通で仕返しをします。
ステッキを取り上げた子どもには、公園の砂場にワニを仕込んで、脚に噛みつかせて、水をかけてきた子どもには、火の玉をぶつけてやります。
涙で濡れた服は、こんな風に怒って乾くのです。
子どもたちは、もう二度とミラをいじめません。
いじめると、チョウチョにされて、蜘蛛の巣に引っ掛けられるからです。
ミラは、お姫さま気分でいました。
子どもたちは、ミラのご機嫌取りに、かわいい少年少女のマスコットをプレゼントしたり、ミラの血を吸おうとする蚊を手のひらで潰したりしました。
そんな子どもたちを見て、ミラは、「ご褒美をあげるわ」と、鼻を高く見せます。
すると、白塗りに赤鼻の子どもが言います。
「僕たちが大嫌いなものを消して欲しいんだ」
ミラは、「いいわよ」と、ステッキを片手に持ちます。
「その化け物は、どんな感じ?」
すると、顔に包帯を巻いた子どもが、口元を震わせながら言います。
「その化け物は、金色の髪をしていて、意地悪なのに涼しげなの」
松葉杖で歩く子どもが涙目で言います。
「その化け物は、脚がちゃんと二本あって、威張って歩くんだ」
手を怪我した子どもが、祈るように言います。
「みんなの宝物を沢山持ってるの」
大人しくしていた子どもが、うろたえながら言います。
「邪魔なやつを磔にして、8本足の使い魔に食べさせるんだ」
ミラは、「そんな邪悪なやつは、あたしが消してあげる」と、呪文を唱えます。
すると、ステッキからまばゆい光が放たれ、ミラの周りにいたみんなが消えてしまいました。
ミラは、眼を丸くします。
「やだ、うそ、失敗しちゃった」
そして、くすくす、うふふ、アーハハハハと高笑いをあげます。
「なんて、馬鹿な子どもたち、お前らが、このあたしを消そうとしていたのは、分かっていたのよ、消える呪文は、お前たちにかけたのよ、大嫌いなやつが消えますように、ってね」
もう、この学校で学べることはありません。
ミラは、寄宿学校の出入り口で呪文を唱えます。
「あたしは、魔法使い」
外に出ると、とても静かです。
きっと、ミラが一番大嫌いだったものを消せたからでしょう。
これから、ここを大好きなもので、埋め尽くして、窒息していくのです。
ミラは、自分だけの世界を手に入れた、
しあわせな子どもでした。




