王族の子ども・ティアラ
二十人目の子ども
「王族の子ども・ティアラ」
ティアラは、のっぽな女の子です。
くず色の髪をし、頭を白い城塞の冠で飾り、首には鋼鉄のチョーカーを巻いています。
これは王族と民を判別する為の印です。
王族も民も、見た目は同じ人間なので、こうしておかなければ、わからないのです。
ティアラは、生まれた時から国のシンボルとして扱われているので、何故か特別扱いされています。
着ている服は、優秀なお針子が仕立てたオーダーメイド。
上品な白いドレスには、民が洞窟からせっせと掘ってきた光る石が散りばめられていて、民の闇が深いほど、美しいのです。
ティアラは、両親の真似事をして、そのお礼に、民と握手を交わします。
上下関係のはっきりとする会話を交わし、自分の育ちの良さを何気なく伝え、護衛の合図を見て、わかれの際には、胸の辺りで手を振り、上品にさようなら。
民は、二つに分かれて、城塞へと続く道を開きます。
ティアラを見ながら国旗を振り、もう片方は、眩しそうに眼を細めます。
護衛たちに守られながら、両親と共に、城塞の中へ帰っていくと、一番頑丈な部屋の窓から、民を見守ります。
その間も、今を必死に生きる民は、ツルハシを両手でせっせと振って、自分たちが掘ってきた鉱石で、国のシンボルを輝かせ続けます。
これは民の使命。
そう、国から学んだからです。
では、ティアラには、どんな使命があるのでしょうか?
ティアラは、城塞の見張り台から、民のもろい家が密集する向こう側、民が働く鉱山を眺めます。
城塞と、鉱山は距離が遠いのでしょう。
民の姿も、働き蟻のように見えて、それが鉱山の出入口で、うごめいてるようにしか見えません。
ティアラは、護衛から受け取った双眼鏡で、鉱山の出入口を覗き込むと、ツルハシを握りしめた民が出てきます。
服も顔も真っ黒に汚れていて、どんな表情をしているのかも分かりません。
出てきた一人が、ツルハシを地面に叩きつけます。
それを見たティアラは、びっくりします。
ツルハシが、傷まみれです。
あんなツルハシでは、次に振った時に壊れてしまいます。
ティアラは、困り顔で護衛に頼みます。
あの民たちに、新しいツルハシをあたえてください、
今より頑丈な。
民は、ティアラの護衛から、頑丈なツルハシを受け取ります。
その事が余程嬉しかったのでしょう。
護衛たちの姿が見えなくなると、抑えきれない感情を露にします。
ツルハシを振り上げて歓声を上げます。
記念日万歳!
ティアラは、その様子を見張り台から、両親と共に微笑ましく眺めていました。
民は、これまで通りに鉱石を掘り続け、王族の暮らしを潤わせます。
ティアラと両親は、民から愛されているのです。
民に会いに、護衛を連れて城塞から、外へ出て来ます。
何か贈り物でもいただけるのでしょうか。
ティアラが期待に胸を踊らせていると、民が突然二つに分かれて、広場までの道を作ります。
ものものしい雰囲気です。
道の先には、民からの贈り物が見えてきて、それは、銅像ではなく、ギロチンでした。
ティアラは、両親の後ろに隠れて、護衛に守られる中、物騒な贈り物を見上げます。
ギラリと光る斜めの刃が、自由落下する瞬間を待ち望んでいます。
民は、嫌なものを見ているかのように、眼を細くして、ティアラと両親を見ます。
ティアラは、ここではじめて気付きます。
自分たちが愛されているのではなく、恨まれていることに。
民は、言います。
首に巻いた鋼鉄のチョーカーをここで首ごと切り落とし、我々を平等に扱え、と。
民の歓声が上がります。
ティアラは、悲しくなります。
運よく王族に生まれて、しあわせが、常にそばにあると信じていたのに。
これで何もかも終わりです。
ティアラと両親は、ついに、運に見放されたのです。
まさか、こんな時に地震が起こるなんて。
大地が上下左右に激しく揺れて、叫び声を上げます。
人々は、人形のように揺さぶられ、大自然の力には敵いません。
強がっていたものも、弱音を吐いていたものも、同じ恐怖を感じて、揺れがおさまるまで、何かにつかまり、倒れたりして、待つばかり。
終わったかと思うと、最後の一撃がドカンと来ました。
国は、静かになりました。
静けさの中、微かに声がします。
しぶとく生き残った者の声です。
ティアラと両親の身体は、瓦礫に埋もれ、身動き出来ません。
腹より下を噛まれています。
上品な服に血がにじんで、声が出る程に痛いのです。
それでも運に見放されてたまるものかと、生き残ろうとします。
誰か、誰か助けてください。
瓦礫の隙間から、ティアラの両親が手を伸ばします。
その手を城塞から駆けつけた護衛が、見つけて握ります。
さぁ、頑丈な城塞へ帰りましょう。
護衛の道案内で、瓦礫の町の中を歩いて帰ります。
その道中、瓦礫の隙間から手が垂れていても、枯れた枝だからと見て見ぬふり。
燃える建物の中で手を振る民には、いつものように手を振り返す事もなく、護衛の後を続いて、救おうともしません。
民より王族という、優先順位が邪魔をしているのです。
無事に、城塞へ帰れば、門を閉じて籠城です。
城塞には、民から搾り取ったこれまでの蓄えがあり、きれいな飲み水もあります。
ティアラは、怪我を負った腹部を手当てしてもらい、水を飲んで落ち着くと、両親のそばで、民に嫌われていた事を思い出し、また悲しくなります。
母親は、ティアラを抱き寄せて、ふるえるくず色の髪を撫でました。
城塞の外では、多くの民が怪我を負い、食べ物も、水も飲めないと、民同士の争いが起こり、病にかかります。
ティアラの父親は、民を不憫に思い、人数が少なくなってきたのを見計らって、護衛たちに、王族の蓄えを分けあたえるように言います。
なんて優しい父親なのでしょう。
ティアラは、父親を尊敬します。
民は、怪我を手当てしてもらい、食べ物と水を飲み干します。
これまで通りに、働けるようになりました。
民は、命の恩人である王族へ、贈り物を捧げます。
それは、民と王族をひとつにする贈り物、
ギロチンでした。
やはり、愛されているのですね。
ティアラは、城塞の冠をかぶった
しあわせな子どもでした。




