シャボン玉の中にいる子ども・ソープ
十五人目の子ども
【シャボン玉の中にいる子ども・ソープ】
ソープは、シャボン玉の中にいる、小さな子どもです。
シャボン玉に守られて、家の中をふらふらと飛んでいます。
シャボン玉というものは、突然割れてしまうものです。
ソープは、シャボン玉が割れる度に、両親に助けられます。
ソープは、無邪気に笑います。
両親は、考える事がたくさんあるのか、よく意見を衝突させて、喧嘩ばかりしておりました。
それでも父親は、家族の為に必死に働きます。
働いたお金で、シャボン玉の液体が入った高価な瓶を買う為です。
母親は、家事をしながらも、殆どの時間をソープと一緒に過ごしました。
ソープは、まだシャボン玉の中にいます。
ソープは、父親がいない間は、母親とおいかけっこをして遊びます。
鬼は、いつだって母親です。
ソープは、シャボン玉の中で無邪気に笑います。
手をパタパタとさせます。
当然のように、シャボン玉がパチンと割れて、ソープの体が宙から落とされます。
ソープは、その度に、母親に受け止めてもらい、母親が、針金のハンガーを丸く変形させて作ったシャボン玉に包まれました。
このような事を1日に何度も繰り返すのです。
ソープは、いつになっても、しっかりとは飛べません。
いつも、部屋の中をふらふらと飛んでいて、1日に二三回は割れるのです。
ソープは、母親の事を次第に疲れさせていきます。
ソープは、そのような母親を見ているのが段々と悲しくなると、母親が眠っていても、呼び泣きをしなくなり、そのまま母親の事を夢の中へ逃がしてやる事にしました。
ですが、母親は、ソープの事を忘れる事はありません。
起きると、ソープがそこにいます。
その時、母親は、しあわせを感じるのです。
雨が降り続く6月。
シャボン玉の中にいるソープと母親は、父親のバースデーの事も忘れて、部屋の中でおいかけっこをしていました。
母親の手には、丸い針金のハンガーだけが握られています。
その夜の事です。
父親がシャボン玉の液体の入った瓶を買って帰ってきました。
ソープは、母親に、こう言われます。
少しだけ待っていてね、
直ぐに帰ってくるからね、と。
ソープは、この時の母親の後ろ姿を忘れません。
扉がパタンと閉まります。
母親は、父親にソープの状態が何も変わっていない事を伝えると、父親が買ってきたシャボン玉の液体が入った瓶を受け取り、それを丸い皿の上に流し込みました。
これで、また新しいシャボン玉を作って、ソープを守ってあげられます。
ソープは、両親の、そのような話し声を聞いていましたが、最後までは聞けません。
当然のように、シャボン玉が、パチンと割れたのです。
ソープの体が、宙から落とされます。
ですが、衝撃はあっても痛くはありません。
落ちた場所は、柔らかいクッションの上でした。
そのクッションは、両親がもしもに備えて用意していたものです。
ソープは、そこで両親の帰りを待ちました。
しばらくして、母親がシャボン玉の液体の入った皿と丸く変形させた針金のハンガーを持って、ソープが待つ部屋の扉を開いて入ってきます。
部屋の中は静かでした。
ソープは、クッションを退けて、花柄の刺繍が施された絨毯の上で眠っておりました。
母親の両手が自由になります。
母親は、ソープにゆっくりと近付いて、その愛らしい頬を撫でて、顔を近付けて、やさしく、おやすみのキスをします。
ソープは、そこで両親の思いを聞いていました。
両親は、ソープにこう言います。
家族になってくれてありがとう、と。
それは、呪文です。
ソープの体が虹色のシャボン玉に包まれて、宙に浮きます。
ソープの体を包んだシャボン玉は、両親との思い出がたくさん詰まった家の中をふらふらと飛ぶと、父親が帰ってきた玄関から出ていきます。
シャボン玉は、ソープの事を包んだまま、屋根より高く昇っていきます。
やがて、シャボン玉は、凍える夜空を越えて、あたたかい太陽に照らされます。
ソープは、シャボン玉の中から、両親がいる下の方を覗きました。
豆粒のように小さくなった両親が心配そうに空を見上げています。
ソープは、両親のもとに帰りたくなりますが、その時、ソープには見えたのです。
しあわせそうではないけれど、両親が互いに寄り添い、仲直りをしたかのように手を繋いでいる姿が。
シャボン玉の中にいるソープは、どこまでも高く昇っていきます。
そして、やはり、シャボン玉はパチンと割れたのです。
ソープは、家族に愛され続ける、
しあわせな子どもでした。




