大家族の中にいる子ども・セル
十四人目の子供
「大家族の中にいる子ども・セル」
セルは、首から懐中時計をぶら下げている、真面目な子どもです。
朝、部屋の中で、たくさんの兄弟たちと一緒に目覚めると、規則正しい生活を始めます。
セルは、兄弟たちが立ち並ぶ、長い列の一番端に立つと、皆が元気かを確認する為に、自分も元気よく朝のあいさつをします。
そして、母親が作ってくれた朝食を、それぞれの神さまに感謝していただくのです。
この限られた時間の中、兄弟たちは昔の話をします。
耳たぶに穴の空いた兄は、昔、店で盗みを働いて、両親に怒られた事を笑いながら話し、
食事がすすまなくなった弟は、水の注がれたコップに突き刺さったストローをスプレー缶のように見て、ボーッとしておりました。
セルは、自分の拳をじっと見ます。
そして、兄弟や両親の顔を見て、自分には家族がいる、と優しい笑みを見せるのです。
食事と皿洗いを終えると、生きていく為に必要な仕事をしに仕事場へと向かいます。
仕事場は歩いていける距離にあるので、少しだけ気分が楽です。
セルは、仕事場で機械いじりをします。
機械いじりでミスをすると、自分の体の一部が削れて、汗水の他にも涙や血がこぼれ落ちて、あちこちが痛くて、塗り薬がしみりますが、セルたち兄弟は、そこで我慢というものを学ぶのです。
懐中時計の針が仕事から出ていく時間を指していれば、そこから解放されて、自由時間です。
セルたち兄弟は、その限られた時間の中で、物陰に隠れて春本で自分を慰めて、溜まっていた唾を吐き出したり、趣味の世界へ逃げ込んだりして、息抜きをするのです。
セルは、たまに、外へ出たくなります。
外へ出る時には、いつも父親が付き添いで歩いてくれて、セルが悪い子どもにならないように、見守ってくれているのです。
セルは、父親と一緒に歩いて港へと向かいます。
そこには、プカプカと大海原に揺られる船が見えました。
船は、鎖でつながれていて、そこからは動きません。
セルは、船を見ながら、腕時計の時間を気にする父親へ訊きました。
いつかは、あの船に自分も乗るのでしょうか。
父親は答えます。
お前は良い子だから、きっと乗れるよ、と。
セルは、自分の拳をじっと見ました。
さぁ、家へ帰ろう、
セルは、船に背を向けて、今まで歩いてきた道を戻っていきます。
家に帰ると、兄弟たちが何してたんだよと、次々に話し掛けてきました。
その背後で、時間通りに玄関の扉が閉まります。
懐中時計の針が、夜食の時間を指しました。
時間は進み続けています。
どんな時間も無駄には出来ません。
セルは食事を終えると、皿洗いをして、せわしいお風呂に入って、歯磨きをして、夜は余計な事を考えないように眠るのです。
セルは、住む家がある、
しあわせな子どもでした。




