拝啓、夕焼けの街
拝啓、君へ
橙色の夕焼けが今日も街を覆い尽くします。
トタン屋根の上で鳴く鳩はどこか寂しそうで、なぜだか胸が痛くなりました。
独りぼっちの彼に同情したわけではありません。ましてや身勝手なエピソードを作り出して、しっとりと甘い感傷に浸ったわけでもありません。
痛みの理由は分かりません。けれど、あの鳩によって引き起こされたものであることだけは確かでした。
風は、私たちのことなど知らんぷりで駆け抜けていきます。
人生とは、きっとこんなものでしょう。唐突な感情を、目先のなにかに投影していく。そして、やたらとため息をつく。
ごめんなさい。私、とっても恥ずかしいことを言いました。人生とは、なんて白々しい大言壮語を口にする日が来るだなんて。
私は未だ、人生の片鱗さえ掴めずにいます。日々の残照を名残惜しく見送るだけ。
日常は習慣で、習慣は人生。そんなふうに表現する人もいますけど、なんだか知らない世界の話に思えてしまいます。
今は分からないなにかを、いつかしっくりと理解する日が来る。あの街にいたときは、漠然とした予感がありました。
けれども結局、私になにが分かったというのでしょう。
人生とは、果たして。
ひとつ知ったことといえば、他人もあまり変わらないということです。分からないけど、知った顔をして知ったふうな口を利いてみる。所詮そんなものです。
誤解してほしくないのは、そんな彼らを嗤うつもりなんて欠片もないということ。
偽るのは、いつだって必死の綱渡りです。嘘をつくことは、ある意味で祈りに似ています。
嗚呼、言葉が過ぎました。いつだって私はこんな具合なんです。君のよく知るとおり。
今でもたまに、あの街の夕景が瞼の裏に蘇るときがあります。これもまた、理由の欠けた物事のひとつ。
寂しさを鳩に転嫁したように、郷愁の理由も自分以外のなにかに求めてみましょうか。戯れに、けれども必死な綱渡り。
私が今でも故郷を想うのは、君のせいです。
不一