伝説の剣附近 29(従属する者)
噂なんですが
教え方が下手な先生の方が
生徒が自分で勉強するから優秀だ?
まあ、噂なんですが。
ユアンに瞳には絶命したモーパイに姿が映っている。
骸となったモーパイが未だに落下しないのは
シーオの呪文の効果によるものだ。
「ユアン」
ボーっとしている彼女にシーオが声をかけたのは
ユアンの目的、天使の従属としての役目を達成させるためだ。
「ええ、そうね・・・・・・・」
気のない返事をするユアンは、モーパイが絶命する寸前に分泌した物質によって
快楽の世界を彷徨っているようにも見えた。
夢うつつと言った表情のまま、モーパイに近づき左手の薬指を死骸の額に当てる。
指はそのまま、皮膚をえぐり、頭蓋を割って脳の奥へと侵入する。
彼女は、既に正気を取り戻していたのだろうか?
その儀式はユアンの後ろで待つシーオにとっても、緊張のひと時だった。
この時だけは
ユアンの表情を見てはならない。
それは、過去に一度だけ
不幸にもユアンの表情が見える位置でそれが行われた時
その瞳に宿る光の存在を知ったシーオの本能が放つ警鐘だった。
ユアンの背後で静かに儀式が終わるまで待機しているシーオ。
だが、彼女の中では激しい葛藤が繰り広げられていた。
それは、彼女が初めてユアンの儀式を正面から見た事が原因だった。
ユアンの瞳に宿る光には、肉体だけでなく
思考や経験、更には魂すら委ねても良いのではないか?
と思わせる程、魅力的な光を放っていた。
その輝きに対して、幸か不幸か
かろうじて誘惑を遮ったシーオが、それから後にユアンが魔獣や魔王に対して
儀式を行う度に激しい衝動に駆られていた。
儀式の最中にユアンの瞳を見てはならない。
と言う思いに対して
今回の儀式で彼女の瞳を見なければ!
と言う思い。
それは、シーオが、この儀式が永遠に続く不滅の存在では無いと知っていたから。
このチャンスを逃せば、光の先に何があるのかは永遠に謎のまま
しかし、最後の一歩を踏み出す勇気が持てない。
葛藤するシーオに目の前で終わる儀式。
そして彼女の中に生まれる安堵。
また、もう一度、悩むことが出来る。
次は必ず結論を出そう。
決別か、それとも・・・・・・。
やがてモーパイの亡骸から離れたユアンの左手の薬指には
放たれた爪が、何事も無かったように収まっている。
ただ、その爪先には、小さな玉。
魔獣石が輝いていた。




