伝説の剣附近 26(惨劇、その痛みこそ)
痛みが快楽とすり替われば
この世界は破滅するのでしょうか?
雨上がり、瞬きするすら忘れて凝視するのは、魔獣モーパイ。
彼の瞳に映っているのは冒険者ユアンとシーオの姿だった。
纏わりつく死の香り、その呪縛から、視線さえも自由を奪われていたモーパイが
ようやく我に返ると、ユアンの狂悦の笑みに潜む理由を探そうとする。
表情だけでは伺い知れない狂喜に慣れてきたのか
先程よりも冷静さを取り戻したモーパイの視野が
ズームアウトした。
すると、彼女の視線が自らの左手に注がれていることに気が付く。
爪?
何が?
目の前で起こっていたのは
ユアンの左薬指の爪が、生き物のように蠢き
彼女の肉体から離れようとしている所だった。
爪が剥がれようともがく度に血が滴っている。
ところが、彼女はその苦痛すら、快楽として受け入れていた。
「この痛み。
この痛みが、あの方と繋がっているということ。
この痛みが、あの方にとって必要とされている証。
この痛みが、私の存在の全て」
呪文のように繰り返される言葉は、他の誰にも聞こえてはいなかった。
ただ、爪が完全に剥がれた瞬間にユアンが呟いた
「もっとこの時間が續けば良いのに」
という一言だけは、傍にいたシーオがかろうじて聞き取っていた。
思い込みは恐ろしいです。




