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異世界 花嫁修業  作者: あべ鈴峰
7/16

花嫁修行スタート

アイリスは 王宮に隣接している 教会の物陰から、 気づかれないように そっと兵士の練習場を除く。

何時もは、 兵士たちが 模擬試合をしているが、 今は馬車置き場に早変わりしている。


異世界の娘と言うから 、もっと変わった姿をしていると 思ったのに …。

顔は私たちと変わらない。

この分だと ラッシュの事だ 。

何の文句も……否、 嬉々として娶るだろう。

あの男は 節操がない。

アイリスは 鼻にしわを寄せる。

顔は合格として 体は どうなのかしら?


もっと 観察したいのに、 馬車 が邪魔して 肩から上しか見えない。

その場でジャンプしてみたが 見えない。

魔法が使えれば 便利なのに …。

仕方ない。


アイリスは スカートをつまむと 小走りに進む 。

柱の陰から 顔を出して見ようとすると 耳元で声がする。

「もう、よろしいのでは?」

「まだよ 。遠眼鏡をちょうだい」

心配性のルミールが 帰ろうと催促してくるが 断って手を差し出す 。

何か、自分を納得させる理由が見つからない限り 帰るに帰れない 。


体のつくりも 私たちと変わらない。

しかし、男のように 短い髪の者もいる。

着ている服は私たちと違って 見たこともない素材や デザインをしている。

遠眼鏡を下に向けると アイリスは息を飲んだ。

ズボンを履いている者もいるが、 それより驚いたのは 何より失神しそうなほど スカートの丈が短い者が うじゃうじゃいる。


なんて 汚らわしい格好なの。

「ル、ル、ル、ルミール見てみなさい」

そう言って ルミールに 遠眼鏡 を渡す 。

「まぁ!」

ルミールが 一目見ただけで驚きの声を発する。

異世界の娘たちは 妖婦に違いない 。

あんな 妖婦 と 結婚したらラッシは 一発で骨抜きになってしまう 。そうなったら 政が おろそかになって コンラド王国が滅んでしまう。


そこまで考えて アイリスはハッとした。

(まさか ……大臣達の目的は …)

預言者が いくら国が滅びると言っても、 どんな娘か 分からなければ 賛成したりしない 。

大臣たちは この事実を知っていたに 違いない。

陰謀の匂いが プンプンする。

「ルミール 。行くわよ!」

踵を返して帰ろうとしたが 返事が無い。

振り返ると ルミールが 食い入るように 見ている 。

(全く ……)

アイリスは呆れて天を仰ぐ。

足なんて そんな大して変わらないのに。

「 ほら、帰るわよ」

つかつかと側まで戻ると ルミールの腕を掴んで 引っ張り 立たせる 。

「アッ、 アイリス様!」

私に気づいて やっと遠眼鏡から目を外す。


ルミールが 私の横を小走りについてきながら 興奮したように話しかけてくる 。

「しかし、凄いですね。 恥ずかしげもなく、 あんな格好するなんて。 どおりで 護衛の兵士の姿がないわけです。 大臣たちは 見たんでしょうかねえ〜」

「 見たのは、一部の大臣たちよ。 古株のおじいさんたちは、 この事実を知らないでしょうね」

もし知っていれば 絶対反対している 。


これはチャンス。 早速、お父様に報告しよう。 将来の国母が あんな短いスカートをはいた 異世界の娘なんて 許せない。

事情を知れば 皆が結婚させようと思わない 。

私たちを見限った者たちに、 一泡吹かせてやる。


***


何の 手応えもなくて 運を天に任せて 課題を提出したが、 神は私を見放さなかった様で、なんとか100人に選ばれた。


しかし、現実は厳しく。

成績順に 席が 決まっている 。

つまり、 教卓の真正面が、この前の課題の成績1位 。

そこから左側が2位、 右側が3位と成績が 一目でわかるようになっている。

1位 の娘は、さぞ気分が良いだろう。

でも、私は 先生の真正面などごめんこうむる。

82位の私は 教卓から遠くへと歩いていく。

36 位 のキャシーとも 離れ離れになってしまった。


しかし、ここまでペチコートが 長いと 足に絡まって歩きにくい 。

合格者は全員 制服を着ることになった。

ところが 、支給されたのは ロングドレス。


今時のドレスではなく 古き良き時代の スタンドカラーに くるぶし丈のスカート丈 。

その上 ファスナーの部分が、ボタンになっていて 一人では着替えられない 代物。

沙弥は、朝からメアリに手伝ってもらって 生まれて初めて ロングドレスを着た。


苦労しながら 指定された席へと向かう。

ここにいる 全員 が あの悪夢のような試験にパスしたのかと思うと感慨深い。


この国の字を書けない私たちが どうやって課題を提出するのかと疑問に思っていが 、まさかそれが 大勢の前で 朗読するという公開処刑 だったとは…。


聞くのは イグニス伯爵だけかと思ったが、 他の審査員もいた。 そして、その後ろには ラグドール様をはじめとする推薦人たち。

私たちを応援するために いるのだろうが 余計にプレッシャーがかかる。

その後の質疑応答は さらに厄介だった。

私が言葉に詰まると イグニス伯爵が 満面の笑みを浮かべる 。推薦人たちに感想を求めたりと、 とにかく 人が困るのが楽しくて仕方ないらしい 。

二度と関わりたくない人物だ。

時間にすれば 10分くらいだろうが、 1時間くらいに感じられた。


愛想笑いを浮かべて席に着く。

チラリと横を見ると 81位の娘と目が 会ったが無視された。

沙弥は、 小さく嘆息する。

また一から、人間関係を築かないと イケないのかと思うと 気が重い。


他にどんな人がいるのかと 沙弥は 観察しだす。

これだけ美人が揃うと 壮観だ。

誰が選ばれても、おかしくない。全員美人だ……。


もしかして あの課題は 体のいい美人コンテスト ?

面と向かって 不合格だと言うと角が立つから 、あんなことをしたんだ …。

となると 気になるのは自分の立ち位置。


どう転んでも、私が選ばれる可能性は無い。

私もリンみたいに、 この世界で生きて行く決心がつけば いいけど …。

生活環境としては最高なんだろうけど、 やはり元いた世界に戻りたい 。

大学受験も就職活動も 待っているけど、 あの喧騒が恋しい。

( お母さんも 心配してるだろうし …。こうなったら 一日でも早く 帰る手段を探そう)


***


ラグドールは 王宮の会議室へと向かいながら、 いたるところで 召使い たちが 選抜試験の結果の 噂話に花を咲かせているのを 見かける 。

(これだけ 注目が集まるのは 嬉しい限りだ)


「ゲルマ様が連れてきた娘たち 100人以上もいたのに ほとんどが落とされたんですって」

「知ってるわ 。合格したの 8人しかいなかったのよ 」

「それに引き換え 、マーベラス様の娘は 全員合格ですって」

「順当ね 」

召使いたちにも ゲルマ伯爵は人気がないようだ。


自分の推薦した娘達は、キシリール氏、 バレンシアに続いて 3番目に合格者が多かった。

予想以上の結果だが 、恥をかかなくてよかったと改めて思う 。

田舎者と馬鹿にされたら 取り返しがつかない 。

王都では、 人を 蹴落とそうとする人間ばかりで気が抜けない。

(… とばっちりを受けないように、しばらくゲルマ伯爵とは距離を置こう)


会議室に差し掛かると ちょうど反対側から 大手を振って バレンシアが 歩いてくる 。

自分が 私より上だったから 調子に乗ってるな。

私に気づくと

「おやおや 。これは3番目の ラグドール じゃないか 」

一人しか違わないのに、 よく言う。

無視してドアノブに手をかけると バレンシアがいちゃもんをつけてくる。

「 もちろん 。2番目の私が先だろうね 」

「……」

無言でドアを開け お先にどうぞと手を向ける 。

肩にポンと手をかけて ニヤリと笑うとバレンシアが先に入っていく。

ラグドールは、ぎりぎりと 歯ぎしりを立てて 怒りを押し殺す 。

今は何を言っても 嫉妬してると思われるだけだ。

( いい気になって いられるのも今のうちだ)


バレンシアを 睨みつけていたが、深呼吸して気持ちを切り替えると、 笑顔で中に入っていく。


***


憂鬱な気分のまま 皇太子妃候補者としての 花嫁修行がスタートした 。1回目の授業は 、コンラッド王国の歴史について 。


文字の読めない私たちのために 絵を見せながら話し始めた 。

「 コンラッド王国は、今から50年前まで 隣国のエバレスト公国と千年にわたり 戦いを繰り返していましたが、 我が国が勝利し 今は戦のない平和な時代になりました 。コンラッド王は そもそも北山の」


紙芝居っぽいと 思っていると 前の席の女の子達が 、おしゃべりを始める 。

「千年も戦うなんて 、よほど仲が悪かったのね 」

「知ってる?千年続いた戦いは 、たった一夜で終わったんですって 」

「一夜で ?何があったの?」

「 それが誰も知らないのよ」

「 本当に〜」


噂話に聞き耳を立てていた沙弥は 首をかしげる。 50年前なら、まだ 生きている人もたくさんいるのに、 どうして 誰も知らない んだろう。

それとも 箝口令がひかれて 喋れないとか?

何だか いわくありげだなぁ〜。

「 皇族でしたが 兄が即位すると同時に弟であった コンラッド王子に 今の王都の土地を譲りました。 しかし、兄が即位して …」


いつのまにか話が子守歌のように聞こえる。

気づけば、まぶたが重い。

なんとか眠らないようにと 外に目を向けると、褐色の肌に 銀髪の背の高い男の人が 中庭に咲いている花に水をやっている。

庭師? でも服装は騎士のような格好している。

あの人は誰なんだろう。アニメの主人公みたいに かっこいい。 その姿に沙弥の顔にも 笑みが咲く。


**


やっと 私の番が来た。

帰るのも席が後ろの沙弥は どうしても最後の方になる 。 キャシーは、とっくに 帰ってしまった。


沙弥は 一人で疲れたと首を回しながら 歩いていると前のめりに、つんのめる。

「っ!」

どうしても ドレスの裾 踏んでしまう。

( これで何回目だろう…)

もっと ゆっくり歩けば大丈夫なのかな?

自分なりに工夫してみるが 上手くいかない。

誰かコツを教えてくれる人が 居ないかな…。


「キャッ!」

考えながら ながら歩いていると いきなり腕を引っ張られて茂みに連れ込まれた。

倒れ込むと 金髪の美少女が顔を近づけてくる。

( この美少女は、何者?)

「昨日着てた服はどうしたの? どうして今日は着てないの ?このドレスは、どうやって手に入れたの ?」

「アイリス様 …」

矢継ぎ早に質問する美少女をもう一人の若い娘が、 止めようと袖を引っ張っる。

しかし、 アイリスと呼ばれた美少女が 乱暴に腕を振り払う 。

「いいから早く答えなさい」

「 これは制服です。 昨日支給されました。 こっちの暮らしになれる為だって言ってました」

「チッ、あと1日早ければ…」

そう答えると 美少女が舌打ちする。


しかし 、本当に美人だ。 高そうな服を着ているし 侍女がいるところを見ると 伯爵令嬢らしい。

貴族的というのは こういう顔を言うんだろう。 中流家庭の娘が 太刀打ちできるものじゃない。 一生かかっても無理だ。

纏う雰囲気からして違う。

「 分かったわ 。ありがとう」


( 待って……これは 教えてもらえるチャンス ?)

一方 的に聞くだけ聞いて さっさと立ち去ろうとする美少女を 呼び止める。

「 あの…ちょっと教えて欲しい事があるんですけど……」

これから毎日着るんだから 恥を忍んで聞いてみる価値はある。

「 何 ?」

「……そのドレスの時の歩き方を教えてくださいませんか?」

「はっ?」

ぽかんとした顔で見られて 苦笑いを浮かべる。

こっちの世界では これが普通だけど 私たちにとって、 こんなロングドレスなんて着るのは結婚する時 ぐらいしかない。


***


成績7位のオリビアと 53位のイザベラは おしゃべりしながら 1位のナタリアの部屋に向かっていた。

3人は推薦人が一緒で 王都に来るまで 同じ部屋で 生活していた 。

「 早く、皇太子に会いたいね」

「 ハンサムだといいな 〜」

オリビアが夢見るように両手を合わせて上を見ると からかうように イザベラ が肩をぶつけてくる 。

「そりゃ、ハンサムでしょ。 出なかったら此処まで来た意味がないよ」

二人は、笑いながナタリアの 部屋 まで来ると いつものように声をかける。


「「 ナタリア、居る?」」

ドアを開けたオリビアが息をのむ。

返事がないことにイザベラが首をかしげながら部屋を見ます。


ドアに頭を向けて ナタリアが仰向けに倒れている。 口からは血が流れて、白目をむき。

そして、胸にはナイフが突き刺さっていて 赤い花をじわじわと大きく咲かせている 。


オリビアがドアにすがりながら ずるずるとしゃがみこむ。 その横でイザベラが悲鳴をあげた。

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