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異世界 花嫁修業  作者: あべ鈴峰
6/16

いざ、王都へ!

新年から風邪引いて、本当の寝正月でした。

山を一つ越えるとガラリと風景が一変した。


食べ物や着る物から、中世のヨーロッパと同じくらいの生活 レベルだと 勝手に思い込んでいたが、 目の前に見える 王都は、それを真っ向から否定している 。

西都が田舎すぎたのか 、あまりにも違いすぎる。


高い石の城壁が ウエディングケーキのように何段にも重ねられて 中央には、より高くより豪華な 王宮がそびえ立っている 。

まるで巨大な要塞 。


城壁が鏡のように太陽の光を反射して キラキラと輝いて別次元の建物に見える。

「 事実は、小説よりも奇なりね」

「そうね…」

キャシーの言葉に頷く 。沙弥は、自分の考えを改めた 。もしかしたら とんでもなく凄いところに来たのかもしれない 。


「凄い。凄ーい!」

甲高い声でメアリが 窓から身を乗り出して、はしゃいでいる 。メイドとしてメアリも一緒に王都に同行することになった 。


「メアリは、王都に行ったことないの?」

「 当たり前です。王都には選ばれた人しか、入れないんですよ 」

指を振って メアリが大袈裟に言う。


選ばれた? お金持ちとか貴族とか、そう言うこと?

「どうして?いくら王都でも人の出入りは、あるんでしょ?」

「あります。でも 、お金持ちじゃないと王都の中心部には 入れないんです。 私たち庶民は 、城壁の外までです 」


「閉鎖的なの?」

王都というだけに王族たちが中心で、生活をしているのか、謎のベールに包まれている。

「さー、分りません。 ご主人様も王都に出入りできるようになったのは 、ここ数年です」

メアリが、そう言って肩をすくめる。


「貴族しか住んでないなら …高級お菓子が食べられそうね 」

キャシーがニヤリと笑うと 私とメアリもニヤリと笑い返す 。

「確かに !」

貴族ならグルメのはず。健康的な食事は私たちにはまだ早い 。

久々に生クリームたっぷりの 高カロリーなケーキが食べたい 。

「そうですよ。 見たことも聞いたこともない食べ物が、 たくさん食べられます 」

メアリが嬉しそうに 言う。

「ご飯物あるかな ?久々に米粒を口に入れたい」

「私はピザ。ないなら ハンバーガーが食べたい 」

「ありますよ。ありますよ。だって、王都 なんですから 」

「「だよね〜 」」

メアリの訳のわからない自信に、 不安よりも期待で胸が膨らむ 。


***


その頃、王宮の会議室には7人の推薦人が 一堂に会して、 お互いに牽制し合っていた。


上座の廊下側の席には 、でっぷりと太ったゲルマ伯爵 (推薦者 158人 )が座り、反対側の窓側の席には 痩せたマーベラス伯爵( 推薦者10人 )が座っている 。二人は王都在住の貴族。


一つ席を飛ばして 派手な 衣装に身を包んだウエール伯爵(推薦者 25人 )東都の貴族。その横に冷めたお茶飲みながら他の人を盗み見ている 東都の商人バレンシア( 推薦者50人 )。


席を二つ空けて反対の廊下側に軍人のように筋肉質な体つきをしている ランセン男爵( 推薦者30人 )北山の貴族 。ひとつ飛ばして 笑みを浮かべているのが、 キシリー氏(推薦者50人 )南海の富豪。


そして末席にラウドール(推薦者43人)の順で、席についていた 。


**


ラウドールは静かに座って他の推薦人たちの話に聞き耳を立てていた。

ほとんどの者とは初対面で 、こちらが挨拶をしても軽く受け流されてばかりだ 。同じ立場でも身分の差が出る。


同じ商人のバレンシアが 自分より上座に堂々と座っていることも 気に食わない。同じ西都の貴族がいれば、 話は違ってくるのに…。 腹立たしさに 奥歯を噛んだ。

( しかし、 大局を見れば 。小さな事で 目くじらを立てる場合では無い)

すでに推薦人同士で 腹の探り合いが始まっているのだから。


「しかし、マーベラス様 が、わずか10人だけしか、連れてこなかったとは 驚きです」

「私の方こそ、驚きです 。ゲルマ様が 100人以上も連れてくるとは」

(王都の 貴族だけあって、 二人ともプライドが高いな )


ゲルマの嫌味を マーベラスが やすやす と返す。 ゲルマが、 やり返そうとすると バレンシアが 間に割って入る。

「 質を取るか、 量を取るか。永遠の課題ですな」

「 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるでしょ」

ランセンが そう言って ゲルマを見ると、 ゲルマの顔が 怒りで赤くなる。

( ランセン男爵とは気が合いそうだ )


「別に大勢連れてきても、問題無いだろう。王都 には身分を問わず 金持ちの男が、大勢いるんだから 。 売り飛ばせば元は取れるだろ」

キシリーが、こともなげに言う。

(…キシリー には、気をつけないと駄目だな )


「流石、ゲルマ 伯爵。抜け目がありませんな 」

そう言って バレンシアが よいしょすると、 機嫌限の治った ゲルマが、笑う。

( ゲルマ伯爵は、 使いやすそうだ)


それでも隙あらば噛みつこうとする者たちをよそに 、ウエールが確信をつく 。

「そんなことより。イグニス伯爵に対する対策を話し合った方がいいのでは?」

「 それもそうだ。マーベラス伯爵と ゲルマ伯爵は 王都在住なのですから、どんな内容かご存知なのでは ?」


ランセン 男爵の言葉に、皆の視線が二人に向けられる。するとゲルム伯爵が意地悪そうな顔でテーブルを回す 。

「勿論、知っていますよ」


***


「アイリス様。こっちに来て見て下さい。 凄いですよ 」

遠眼鏡で 外を見ていた侍女のルミエールが、手招きする。

( 人の気も知らないで )

まだ、あの日から1ヶ月も経っていないと言うのに 少しは気を使え!

「 あー!凄い。四方からの道が 馬車で埋まってます」


アイリスは、合わせていた 両手をゆっくりと離す。 すると、手の間に 小さな火球ができる。

そのまま、間隔を広げると火球が どんどん大きくなる。

「凄いです。… これだけ馬事が 並ぶと、 壮観んですね…」

(…お前に 語彙力は、無いのか。たまには、凄い以外の言葉を使え)


握りこぶし大の大きさになったところで、的に向かって手を振るように投る。

的に当たると火球が砕けて消えて、 焦げた匂いがあたりに漂う。


「凄い。見てください。 アイリス様のより豪華な馬事です」

また、火球を 作っていた アイリスの こめかみが ピクリとする。

(お前は、誰の侍女だ)


「まだ、 やるんですか?」

見物するのに、飽きたのか ルミールが声をかけてくる。

止める気は無い。

「はぁ〜」

集中して手を広げると子犬ほどまで大きく膨れ上がる。


何から何まで気に入らない 。稀代の魔力を持って生まれた アイリスは 、生後3ヶ月で皇太子の婚約者になった。それ以来、魔法を磨くべく 鍛練に精進していた。 それが、たった一人の預言者の言葉で 全てが覆ってしまった。 お父様や大臣達も反対した。

揉めに揉めたが 、1ヶ月前に意見が通り 私は、ただの伯爵令嬢に戻ってしまった 。


この16年間の恩恵が消えてしまった。

連日、押し寄せていた者も 取り巻き達も誰一人来なくなった。使用人も辞めて、皆が手のひらを返した。


この屈辱 !

お父様も職を解かれ家に引きこもり、 私は魔法を使えるという理由で 王宮に入る事さえ、許されない。


限界まで大きくなった火球を 投げつけると 轟音とともに、 ぶつって的が焼き尽くされて 立てかけてあった、後ろのレンガの壁にひびが入る 。

「まぁ、こんなものね」

そう言って 手を叩いて 埃を払う。

すかさず、ルミールがタオルを差し出す。


「ルミール、出かけるから、支度をして」

タオルを ルミールに返すとドアに向かって 歩き出す。

「どちらへ、行かれるんですか ?」

ルミールが足早についてくる。

「決まってるじゃない。異世界の女どもを 見に行くのよ」

「…大臣が、騒ぎを起こすと 第二夫人の座も危ないと言っていました」

ルミールが 躊躇がちに 切り出す。


「フン。 正妃 以外、興味ないわ 」

アイリスは鼻を鳴らして馬鹿にする。 私が騒ぎ立てないように 言っているだけで 、何かあればすぐに 消えてしまう話だ 。


「ですが…ここは…」

「くどい!」

食い下がるルミールの言葉を遮る。


どれほどの実力か見せてもらおうじゃないの 。

「かしこまりました 」


***


グラウンドのようなところは すでに到着した 馬車で満車だ 。

奥へ奥へと進みながら馬車にも各があることを知る。 有力な候補者たちは プリンセスが乗るような豪華な馬車、に乗っている 。私たちの 馬車

は 荷馬車より ましという程度だ 。


前の世界にも 、いわゆるセレブはいたが 、普通に生活していたら 会うことはない。

だからどこか、テレビの中の出来事で 現実味を感じていなかった。 でも、こうして あからさまな待遇の違いを感じると 心ならずもショックを受けた。


こっちの世界では身分が全てだ。

皇太子妃に なれなかったら 前の世界より 貧乏な生活になるか…。

( これは本気を出さないと)

沙弥は 落ち込んでいる自分に喝を入れ ようと

両頬を叩いた。


**


私たちが集められたのは大学の講堂見いなところで、 席が階段状に設けられている 。


沙弥は、集められた少女達の数に 圧倒される。

ロブが、言っていたことは嘘ではなかった 。

ざっと見た所4,500人はいる 。

(本当に、こんなに人を攫ったんだ)


落ち着きなくあたりを見回している子もいれば、フランクに初対面の人に話しかけている子もいる し、すでに諦めていている子など 悲喜こもごも の表情を浮かべている。


服装も様々で、民族衣装を着ている子もいる。

(あれは、どこの国の服かな?見たことあるけど…)



ドアが開くと一瞬にして緊張が走る。


背の高い人 、ピンと背筋を伸ばした 中年の痩せた女の人が 、コツコツと足音を立てながら入ってくる 。

見るからに厳しそうな人だ 。あの人が私たちの教育係 ?

教壇の中央にくると 鋭い眼光で 私たちを見回す。その視線に 静かに なった。


「こんにちは。私が皆さんの教育を担当することになりましたミベックです 。到着早々で申し訳ありませんが、皆さんには これから 選抜試験を受けてもらいます 」


「「えー!!」」

不満の声がさざ波のように立つ。

やはりこんなにたくさん候補者がいたら、そうなるよね 。

「静かに!」

ミベック女史の一言で私たちは黙る。

「 それでは 選考委員の イグニス伯爵から、 課題が発表されます。どうぞ」


ミベック女史が、教壇を下りると入れ替わりに

白髪の初老の老人が教卓に登ってくる。

いかにも貴族っていう感じの人だ。 すべてが、それっぽい 。

「あ~、こほん。こんなに若い娘に注目されるのは、久しぶりで気分がいい 」

真剣に話を聞こうと集中しているが 、伯爵は私たちを見て楽しそうに 微笑んでいる。


「イグニス 様 」

「わかった。私が 皇太子妃に 求める資質は、 美意識だ」

「「えー!!」」

美意識?!そんなものどうやって審査するの ?

騒ぎ出した 私たちを無視して話しが 進む。


「その方法は…詩だ。詩を書いてもらう」

「 聞いての通り、課題は詩です。 上位100人が合格者となります 」

「「えー!!」」

ポエム?そんな黒歴史にしか、ならないものを書かなくちゃいけないなんて 、沙弥は頭を抱える。 人がせっかく やる気になったのに…。


私に文才は無い。

でも、知らない土地に放り出されるのも嫌だ 。しかし、困った。

キャシーを見ると、すでに口元に手をやってブツブツと言っている。

( 得意そうだ)

私にも少しで良いから、 才能を分けて欲しい。

「 提出期限は 明日のお昼までです。 それでは、みなさん 頑張ってください」

言うだけ言って ミベック 女史が 出て行く。

それでも不満は、おさまらない。しかし、 私たちに 拒否権はない。


**


「はぁ〜」

真っ白な紙と、にらめっこしていた 沙弥は、ため息をつくとペンを放り投げた。

(何も浮かばない)

お題が自由ということも厄介だ。


それでも何かしねり出そうと、腕組みして紙を睨む。

「……」

時間が、掛かりそうだ。

気分転換でもしようと 鞄からプレイヤーを取り出すとイヤホンを耳にセットする。

お気に入りの『 雪月空 』の声に癒される 。


やっぱり、空ちゃん最高! この歌詞が、たまらないんだよね〜。切なくて、胸にぐっと……。

うっとりと聞いていた沙弥は パチリと目を開けると指をパチンと鳴らす。

( これだ !)


そして、いそいそとペンを走らせる。

少し、手直しすれば大丈夫。こっちの人は雪月空なんて知らないんだから。


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