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異世界 花嫁修業  作者: あべ鈴峰
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浮くか、沈むか。それが、運命の分かれ道

ドアを開けると リンが ベッドに 足を投げ出して お茶を飲んでいる 。

リラックスした その姿を見て 安心すると同時に 気が抜けた。


私たちに 気づくと 軽く 手をあげる。

「お帰りー」

「リン。 大丈夫なの?」

「 もう、心配したのよ」

「 全然と 、言いたいところだけど 大問題が 発生したんだ」

リンが 深刻そう 顔を伏せる。


私たちを心配させまいと 空元気 だったの ?

キャシーと 一緒に リンの手を取った。

短い付き合いだが 、リンの 力になりたい。

「 何?言って 。私たちに 出来ることなら 何でも協力する」

「そうよ 。仲間だもん。 遠慮はいらないよ」


リンが、舌をペロッと 出して肩をすくめる。

「自由になりたかったら 、今までの宿泊代金を はらえって言われたの」

病気じゃなかったと 安堵したが……。

そちらの方は 力になれ無い。

「 お金か…」

「 どうやって 工面するの。 私たちの お金は こっちでは 使えないんでしょ 」

キャシーの言う通りだ 。もし使えたとして も リンは半月も泊まっているから 相当な金額になる 。


3食付き だから 一泊1万円として…… 15万円!

大金だ 。そう簡単に 払える 金額じゃない。……もしかして 、それが狙い。 借金が返せないなら、 体で返せって ?


「それは 大丈夫」

自信満々の リンの態度に 首をひねる。

バイト先の あてでも あるのだろうか。

私たちの 心配をよそに リンが 自分の鞄から ペンケースを取り出すと 使いかけの 鉛筆を 私たちに見せる 。


「…鉛筆でしょ。ソレが どうかしたの? 」

「!もしかして、似顔絵を描いて稼ぐの?」

わかったとキャシーが、鉛筆を 指差す。

「あぁ、なるほど」

意外な才能があるんだと 感心していると

「違うよ。 私に絵の才能は無い」

リンに否定されてしまう。

「「?」」

じゃあ、何にと リンを見る。


「こっちの 世界に、 鉛筆は無いの。 つまり、 貴重な品だから 高値で売れるのよ」

「はぁ…」

「へー」

どうだと言わんばかりに リンが両手を腰に回す。 それが本当なら鞄に入っている 品物全部が、貴重品になる。 そんな うまい話が あるのだろうか?


「本当に ?」

「本当に!」

自信たっぷりに リンが太鼓判を押す。

「 やっと謎が解けた 。羽振りが良いと思ってたけど 、そんなカラクリがあったのね 。どうして教えてくれなかったのよ 」

「ごめん。ごめん」

キャシーが拗ね。何やら、思い当たる事があるらしい。

「でも、 どうやってそんなこと 調べたの?」

「そりゃ、ここに来て 半月 だもん。 この世界のことを 詳しくなるよ」

なるほど。時間は、 たっぷりあったはずだし。


「じゃあ 、本当に売れるんだ 」

「そういうこと 。サヤも お金が必要なら 骨董店に 持っていけば良いよ 」

お金の心配が、無いなら 、自由の身だ 。


「それじゃあ 、この後 どうするんですか?」

「とりあえず、 せっかく来たんだから この国を 旅して回るたい」

それには 、私も賛成だ。でも、 その後は?

リン は このまま この世界で暮らす気なの。

元の世界に 戻りたいと思わないのかな 。

それとも 帰れない …とか。

(……)


本当のことを知るのが怖い。でも…。

「あの …元の世界に 帰る方法は 無いんでか?」

思い切って 聞いてみた。 もし、無いと言われたらどうしよう 。

(どうか、ありますように…)


「あるよ 」

「本当ですか !どうやったら、帰れるんですか!」

矢継ぎ早に 質問すると リンが、両手で押し止める。

「私たちを こっちの世界に 連れてきた アノ方法だと。 無作為に相手を 捕まえるから、 男とか 犬とかも こっちの世界に 来ちゃうんだ。

だから 、 同じような道具で 送り返してたんだ」

( 確かに)

犬ばかり 釣り上げていた人が、いると 言っていた。

「 私を 捕まえた人は 、同時に 何個も 使ったみたいで、目の前で 人が消えていくから 何かの ドッキリ番組かと 思った」


「 その道具は 、どこで買えるんですか?」

これで 元の世界へ帰れる。 期待を込めて聞くが、リンが すまなそうな顔をする。

「 残念だけど 、もう残ってないみたい」

「……そう…なんですか…」

沙弥は、肩を落とした。そう上手くは、行かないか…。

言葉にして、言われると やっぱりショックだ。

「「……」」


「サヤは帰りたいの 」

「うん」

正直にコクリとする。

でも、もう帰れない。皇太子妃は 魅力的な話だけど …。元の世界が、恋しい。

私が 、シンデレラになることは 無いだろうし。 きっと今頃心配している。


「私も帰れるなら、帰りたい……」

「……」

キャシーも 項垂れた。

元気にしてるけれど私より年下だもん 。私以上に家族に 会いたいはず。

キャシ―の肩を引き寄せる。

このまま この世界で 生きていかなくちゃ いけないのかな……。

( 待って …作る技術があるなら、 もう一度 作ってもらえば いいのでは ?)



「私は帰らない。 この世界で生きていく」

リンの言葉に 顔を上げる。その 決意に満ちた 表情から 本気だと伝わってくる。

「 どうして? 玉の輿にも乗れないし、 ジャンクフードが食べたいって 言ってたじゃない」

理解でき無いとキャシーが言う。


「……そうだけど。 帰っても 誰も 喜ばないし 」

リンが私達の視線を避けるように カップに目を落とす。

「そんなことないよ 。…友達とかが 待ってるよ」

「 家族と仲が悪かったとしでも、急に居なくなっら心配するよ」

「家族はいない。私 施設育ちなんだ 」

「っ」


なんでも無い事のように 、さらりと言うが、平凡に暮らしてきた 私でも それが 大変だということは 察しがつく。

ごめん 」

「気にしないで 、なれっ子だから」

「「……」」

「 でも 、そのことに感謝してる。 おかげで この世界でも 生きていけるから 。心配しないで」


キャシーがリンに腕を絡める 。

「だったら 、私たちが リンの姉妹になる 」

(……)

こういう時 民族性の違いを感じる 。


責任を伴う事をいとも簡単に 約束する。 私には難しい。たとえそう思っても、 自分の言葉に 対する責任を 考えると 婦通は言えない。


でも、私がどんな人間か 知らないのに 親切にしてくれた。 そのことを考えると 少しでも 恩返ししたい。

「 …もっ、もちろん 。頼りない姉で よければ …」

「大丈夫。 頼りになる 妹がいるから 」

キャシーがウインクする 。

「っ、それが 姉に対する態度 かー」

キャシーを 捕まえようとする私をリンがキャシーと一緒に 背中から 抱きついてくる 。


「二人ともありがとう…。 大好きだよ!」

「… 私も好き 」

「うん 。二人とも好きだよ 」

お互いに、抱き合って円くなった。

いつしか、涙が溢れ出る。


知らない場所で、訳も分からないまま、初対面の人との生活を強いられ。気の休まる時は、無かった。

でも、こうして信じられる友達が出来た。それなのに、その友達と 別れなくちゃいけない。


***


重厚な作りの 書斎で ラウドールは ジョナス から、リストを受け取りながら 報告を聞いていた。

「 全部で何人だった ?」

書斎に飾られている 調度品は 全て大枚をはたいて 買い集めたものばかり。

そして それは、 同時に 自分がいかに 成功したかを証明している 。


「43人です。…選別 しますか ?」

ジョナスは 、私の右腕として 働いてくれている。

全員連れて行くなど、お金の無駄だと 思っている のだろう 。だが 、この世に 無駄なものなど 何ひとつ無い。その辺に転がっている 小石でも さえ 利用価値がある 。

「否、全員連れて行く 」

不服そうなジョナスに 言葉を加える。

「 第一次審査は イグニス伯爵だ 。どんな方法を 思いつくか 分からないから 念の為だ」


イグニス伯爵の 名前を聞いて 、ジョナスが口を歪める。 あの伯爵の気まぐれには、 誰もが 煮え湯を飲まされた経験がある。

「 かしこまりました 。… 2次審査 まで進んでくれる娘が 、一人でも いてくれるといいのですが」

「そんな事は 気にしなくていい」

心配する ジョナスを一蹴する。


娘たちなど、 はなから 期待して無い。

もちろん 、最終選考まで 残ってくれたら、ありがたい。 しかし 、一番の目的は 人脈作り。


7歳から この市場で働き出して 、もうすぐ52歳 西都では 一目置かれる まで 上り詰めたが、 まだこれからだ 。今回の 皇太子妃選考に 参加したのは 、推薦した娘が 残っている限り、 無条件で 王都に滞在できるからにほかならない。


出費が、かさむが 他の地域の人間と 自由に交流できるし、 富豪でも貴族でも 情報交換という目的で 会うことができる。


この商売をしていると 『会う』という事が 一番難しいと言う事を 知っている 。

だからこそ 、このチャンスに賭けている。

「 そんな事より 、王都に行けるんだから、 ぬかりなく準備しろ 」

「お任せください 」

頭を下げるジョナスに ラウドールは 鷹揚に頷く。


***


「でも 、どうして リンは不合格なの ?持病はないんでしょ。 美人なのに もったいない」

そう言うと リンが、お茶を注ぎ ながら首を横に振る。

「無理、無理 。だって 、私処女じゃないもの」

「……しょ、処女 …」

衝撃的な告白に 目を見開く 。沙弥はリンを盗み見る。 やはり、外国人は そういうのが早いんだ。

「 やっぱり、その検査だったの。怪しいと 思ってたのよ」

キャシーが そう言いながら クッキーを口に 放り込む。

「えっ!」

「 何、驚いているの? 皇太子と結婚するんだから、 大事な事でしょう」

「 そうだね …」


完全に騙されていた。

言われてみれば、そうだ。

しかし 、アレが 処女の検査とは 信じがたい。

「 あんな事で 処女かどうか わかる んですか?」

「 針を入れた水に 、魔法が仕掛けてあるんだって 」

「それって 、どういう原理 ?」

「何でも 体を風船に例えて、 破れてたら沈む。 破れてなければ浮く っていう事らしい 」

「何それ !」

「でしょ!非現実的 だよね」

「それを信じて 疑わないんて。 絶対 間違ってる 娘もいるね」


二人は 馬鹿馬鹿しいと 手をたたき合って、 笑っているが 沙弥は 少し 感動していた 。


こっちの世界には 魔法が存在するんだ。


***


サラサラの金髪に 青い瞳の 綺麗な顔立ちの青年が 、玉座の 肘掛掛けを 指で叩く。


「皇太子 。ご安心ください。 異世界の者と 危惧しておりましたが 、見た目も 声も 何ら私どもと 変わりありません 」

ラシュフォード は、大臣の 間抜けな報告に 内心うんざりしているが 自分の務めだと知っているので 笑顔で我慢していた。


大臣が部屋から出て行くと ラッシュは 置いていった 候補者リストを広げる。

聞いたことあるような名前から 、どう発音するかも 分からない 名前まで 、ずらりと並んでいる。その横に 年齢と 推薦人の名前が連なる。


重要なのは、どの推薦人と 手を組むか。


後は、 その中から 従順な娘を適当に 選べばいい。

政にまで 口を出されたら たまらない。


(う~ん。娘たちより先に 推薦人に会う必要があるな …)


***


翌日 。

沙弥達は リンに見送られて 王都へ向かって 出発した。

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