ある晴れた、昼下がり
「そりゃ、世界から来たのは、お前が初めてじゃないからさ」
「えっ?……無い。無い」
沙弥は、両手を振った。そんなお手軽な話なわけない 。何か秘密が、隠されいる。
「本当だよ」
だが、真顔で 否定されて固まる。
……二人 の手慣れた態度を考えると 一概に、嘘だとは言えない 。私を見て女子高生だとわかったのは 、私より先に 誰か来ていないと、知りようが無い。
「……」
異世界へ来るなんて 、宝くじに当たるくらいの奇跡だと …思っていたけど ……。もし、それが本当なら 、何人来てるの?
「百歩譲って 、そうだとして、 何人いるの ?」
「そうだなぁ〜。60人くらいかな」
「 60人?!」
沙弥は、思わず大声を出した。
もしそうなら絶対、テレビや新聞で 取り上げている。
連続女子高生行方不明 ……否、連続女子高生拉致事件…。
否、否。有り得ない。 パニックになりそう 。
サムが、指折り数えながら話を続ける。
「 他にも、東都、山北、南海があるから……全員で1000人くらいだろう」
「1000人!」
話がどんどん、大きくなって 、ついていけない 。
こめかみを押さえた 。
「でも、 男とか子供も混じってるから、女は半分くらいかな 」
「サム。犬を忘れてるぞ 」
犬?犬まで召喚してる の?全く意味が分からな。何で、そんなことするの?目的は何?
「無差別に誘拐…拉致 してたの?」
「仕方ないだろ 。引き上げてみないと、わからないんだから」
「大袈裟だな。誘拐じゃない。釣りだよ、釣り」
(まったく、人を魚みたいに 。しかも、入れ食いときた。人間には知性というものがある 。そう簡単に騙されるはずない )
もっと、何か…こう…特別な力を使ったに違いない 。
「 人間は魚より、ずっと大きくて重いんですよ。そんな事できるはずないじゃないですか」
「「出来るよ 」」
「何を根拠に、そんなこと言うんですか?」
二人の自信満々の答えに、沙弥は半ば呆れながら聞く。
「「 それ」」
二人が口を揃えて、私の手を指差す 。
「?」
指さされて、握ったままだったと手のひらを開くと、キラリと光るモノが…。
そうだ。これを拾った途端、あたりが眩しく光って …。「そっちの世界の女も宝石に目がないからな」
サムガ片眉を上げる。
確かに綺麗だと思ったけど 、別にネコババするつもりじゃ …。
人聞きが悪いと口を尖らせる。
「落し物を拾ってる時に、偶然見つけて 、間違って拾っただけです」
「はい。はい」
「恨むなら宝石に目がくらんだ、自分を恨め 」
でも、こんな何の変哲もないものが 異世界に召喚できる仕掛けが、してあったなんて信じられない 。
「本当に…私がこれを拾ったから 、こっちの世界に来たんですか ?」
確かめると、二人が声を揃えて頷く 。
「「そうだ」」
「……」
「もう一度に握ってみろ。帰れるかもしれないぞ」
ロブに言われるまま 素直に、もう一度に握って 手のひらを開く。すると キュンという金属音を立てて、 一瞬で細いブレスレットに 変形して、気を付けば手首に収まっている。
「それには 、逃走防止の 術が、かかっているから 、逃げても無駄だ」
「これで逃げられなくなったな」
「騙したのね !」
沙弥は二人を睨みつける。脳天気な 二人組だからと油断した。
そういえ、 この二人は 拉致犯だった。
「 逃げたければ、逃げてもいいぞ 。遠くに逃げれば、逃げるほど締め付けられるらしいから。どうたした 試してみるか?」
サムが面白かって挑発してくる 。
本当かどうか怪しい。でも、 何かの魔法が、かかっているのは事実だ 。
沙弥は相手にしないで 、ブレスレットの目を落とす。
クルクルと回してみたが外すところがない。
「これって、どんな仕組みになってるんですか?」
ブレスレットを太陽にかざすと 細い何かが 動いている。 激しく振ると 、激しく揺れる 。
(スノードームを見たい…)
「知らねぇ。 俺たちは魔法に詳しくないからな」
使い方も知らないのに、よく成功したものだ。
「 ところで、どうしてそんなに 異世界の住人を集めてるんですか 」
「さあな、 俺たちは金になるからやってるだけで理由は何だっていい のさ」
見た目は一般人だが、やってることはヤクザと変わりない 。それなのに悪びれた様子も無い。
「それに俺たちみたいな下っ端に、教えるはずないだろ 」
「まぁ…確かに 。それじゃあ、その中に日本人はいましたか ?」
「ニホンジン?」
「私みたいに、黒い髪の黒い瞳の人間です 」
「俺達が釣り上げたのは、二人とも茶色の髪だったし、他所の奴が、連れてきた娘は見てないからな」
「まぁ、行けばわかるさ」
「 全く 、何なら答えられるんですか !」
こっちは少しでも情報が欲しいのに。 何の手がかりも無い。
本当に、この後どうなるの ?漠然とした不安を感じて口を結ぶ。
***
山を下りきると、荷馬車が用意されていた。
だが、もう何も驚か無い。
汚れないようにと 、ログに渡された毛布を腰に巻いて、 人魚のようにコロンと 乗り込む。
ガタガタと凸凹道を小石を弾きなが進んで行く。 飛んだり跳ねたりして 景色を見る余裕もない。
頭 の中に あの歌が流れてくる。
(売られていく よー)
仔牛になった気分だ。
町の中に入った 。
私を見ても誰も何の反応も示さない。日常化してるようだ。
スーパーやコンビニは無い。
でも、道の 両側に 露店が並んでいて、お祭りみたい。
物珍しさにキョロキョロしていると、肉の焼ける美味しそうな匂いが、どこから漂って来る。
そういえば、 昼から何も食べてない。
沙弥は、 慰めるように、お腹をさすった 。
「着いた」
ロブの声に前を 向くと 、大きなレンガ作りの問題が 見えてきた。
「おっきい……」
呆気にとられたまま、 門をくぐると 中に、もう一つの街があった、中央には噴水があって 、大勢の人が行き来している。 3階建ての建物で 右側が食品、左側が日用品が売られている。
「どうして中に、お店があるの?」
「 ここは、ラウドール商会。お前達の言葉で言えば商社だ。ありとあらゆる物を売り買いしている 」
「ここの品は、良い分。 バカ高い」
そうこうしているうちに荷馬車が停まる。
よっこらせと、 降りると鞄を担い直す。
店主 との対面だ。言いたいことも、聞きたいことも山ほどある。
だが、いさ、部屋に案内されると雰囲気に気圧されて言葉が浮かんでこない。
中央に店主らしき人が座っている。 身につけるアクセサリーから素人の私が見ても 身分の高い人だと分かる。
二人の押されて、無理矢理、前に押し出される。
ゴクリと唾を飲み込んだ。とうとう、売られる。
「ケビス様。ご要望の女子校生を捕まえました」
ちらりと私は見ただけでケビスが書類から目を離さずに、机の上の小箱から 金貨を放り投げた 。
「毎度どうも。また、何かありましたら 、お声掛けください 」
「では、失礼します」
ひどい扱いに驚いている私を 押しのけて、ロブ達が、お金を拾うとペコペコと頭を下げて出て行く。
「ちょっと 」
さっさと出て行こうとする二人に 、声をかけるとサムがウインクして出て行く。
全く、薄情な。別に期待してたわけじゃないけど 。
「メアリ。連れて行け」
「はい!!」
大きな声に振り向くと、袖を引っ張られた。 下を見ると 、そばかす顔の少女と目が合う。
この娘が使用人?どう見ても10歳ぐらいだ 。
「お部屋に、ご案内します」
そう言うとさっさと歩き出した。
(私が逃げ出すと思ってないのね…)
しかし、呆気なく終わってしまった、
なんだか、肩透かしを食らった気分だ。
後ろ をついて歩きながら、メアリを 見た。
どう見ても10歳くらいだ。
でも、この 家の使用人なら 色々知ってそうだ。
「私は、沙弥。あなたは?」
「私はメアリです。何か不自由がありましたら、何なりとお申し付けください」
「 私以外にも女子校生がいるみたいだけど、全部で何人いるの?」
「沙弥様を入れると…48人になります」
「そんなに……」
二人の話を本当たった。
「ですので、相部屋になります」
メアリが申し訳なさそうな顔で頭を下げた。問題ないと手を振る。願ったり叶ったりだ。一人にされたら不安で仕方がない。それに同じ境遇の人がいるのは、 心強い。「大丈夫。全然平気」
「こちらになります』
メアリがドアを開けると、先客が振り返る。
その姿を見て沙弥は思わず身構えた。