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空を飛ぶと落とされる?

初めての投稿で、初めての異世界物。

暖かい目で見て下さいね！

『はい、はい。わかってます。帰ればいいんでしょ」

沙弥は投げやりに言うと歩き出す。

その背後で校門がガラガラと音を立ててしまった。

ずり落ちた鞄を肩にかけ直すと未練がましい目で振り返った。

校舎の全ての窓がオレンジ色に染まっている。まるで夕日に飲み込まれたみたい。

「はぁ〜」

人生初の赤点を取りそうなのに…。

沙弥は諦めたように、また歩き出さた。

期末テストまで、あと一週間。自習室で勉強している生徒を5時で追い返すなんて！そこは熱心な生徒のために利用時間を延長すべきでしょ。

暮れていく空を見ながら、これからどこで勉強しようかと考えあぐねた。

(家かぁ……)

家に帰ると勉強しないんだよなぁ…。誘惑が多すぎる。

居間でテレビを見ながらスマホ片手にお菓子を食べる自分の姿が、ありありと浮かぶ。

自分の部屋？頭に自分の部屋を思い出してみた …

机の上には漫画に洋服、cCD、高1の時の教科書、食べかけのおやつ…。

駄目だ！

片付けるところから、はじめなくちゃいけない。

お金かかるけど、お店に行くか、それとも遠いけど図書館に行くか。

図書館って何時まで開いてるのかな？

……途中で移動するのも面倒だし仕方ない外食するか！

ハンバーガー店？　ファ,ミレス？

ドリ,ンクバーとポテトの Mって、どっちが高かったっけ？

頭の中で財布の残金を計算していると、くぐもった着信音がする。

沙弥は鞄の中に手を入れて探そうとするが詰め込まれた教科書、ノート、参考書、筆記用具に弁当箱が阻んで見つからない。それでも諦めずにプラスチックの硬い感触を探し求めるが一向に指先に触れない。

「はい。はい。ちょっと…待っててね」

呼び出し音に急かされながら、やっと手に触れたスマホをつかんで鞄の中から強引に引き出すとバサバサと中のものが一緒に外に飛び出す。

「あっ！」

それと同時に呼び出し音も終わった。

「……」

沙弥はスマホを戻すと、がっくりしながら落としたものを拾い集める。

試験勉強のために全教科を詰め込んだことが仇となった。

土埃をパンパンと払いがら集めていると現代文の教科書の横に何かキラリと光る物を発見した。

首をひねって、それを拾い上げた。

「私、こんなもの持ってたっけ？」

ドロップ型の黄色いガラスでできたストラップのようなものだった。それが夕日を浴びて赤く染まってキラキラと輝いている。

「綺麗……」

そう思っていると急に光り出して眩しさに目を閉じる。

「やった!！やった！JK get」

「イェーイ」

「紺のブレザー」

「イェーイ」

「チェックのスカート」

「イェーイ」

人を小馬鹿にしたような話に薄目を開けると二人の男がハイタッチして喜びあっている。写真でしか見たことがないくらい昔の服を着ている。

この人達は誰？

(JK？ブレザー？何を言っているの？)

「黒いソックスにローファー」

「イェーイ。イェーイ！！」

ハイテンションの二人に気付かれないように、辺りを見回した。

(アレ？)

ここは何処？いつのまにか景色が一変している。校舎も住宅もアスファルトの道路も車も無い。

夕暮れだったのに昼間のように明るい。怪訝に思いながら上を見ると木々の間から青空が見える。

「俺達って運がいい。でも、セーラー服の方が高いんだっけ？」

「まあ、女子高生なんだから文句を言うな。サムなんか 5回やって全部、犬だったんだからな」

これは白昼夢だ。そうだ。そうに決まっている。試験勉強のストレスで頭が混乱してるんだ。沙弥は、ぎゅっと固く目を瞑る。

「あいつは運がなさすぎる」

片目だけ開けてみたが元の場所に戻ってない。

まさか…異世界？

いやいや無い無い。手を振って自分の考えを完全否定した。

(……頬をつねってみる？)

こういう時のお約束だ。何とも言えない気分で頬をつねってみた。

痛い……。否、きっと何かの間違いだ。

「半月で金貨9枚。これなら俺たち大金持ちになるんじゃね」

「バカだなあ。道具に銀貨 6枚使ってるから …金貨8枚と銀貨4枚の儲けだ」

「お前は本当に細いねえ〜」

私に、そんな事が起こるはず無い。

そうだ！ここはヨーロッパのどこかよ。何かの拍子にワープしたんだ。

そうに違いない。森にいる理由はそれが原因だ。

二人の古臭い格好も通貨がとかは…きっと田舎だからよ。

違和感を感じている自分をごまかした。

(……)

私の頭上で喋り続けている二人の様子を伺った。

聞くなら、この二人しかいない。

「お前が大雑把すぎるんだ。考えてもみろ道具の値段が銀貨9枚なら金貨8枚と銀貨1枚の儲けだ。それでも金貨9枚だと喜べるのか？」

いつのまにか言い合いに、発展していて私の存在を忘れている。

このままだと延々と、くだらないやりとりを聞く羽目になる。

じっとしていても埒が明かない。

覚悟を決めて話しかけるか！二人組に聞けば自ずと答えが、はっきりする。

「あの…ちょっと…」

「分かった。分かった。ところでロブは何に使うか決まってるのか？」

「俺は家を買う』

ロブが、そうだと胸を張って答えるとツレが肩にパンチをして冷やかす。

「さては、お前、女ができたな」

ロブが鼻の下を指で擦りながら恥ずかしそうにした。

「へへっ」

人が話しかけてるのに無視して夢中で話している。

「お取り込み中すいません！ここは何ていう国ですか？」

語意を強めて言うと、やっと二人がこっちを向いた。

「……」

私の質問に、二人ともきょとん顔で見返してくる。

「だからー。国の名前をお教えて下さいって言ってるんです」

「忘れてた、さっさと連れて行かないと」

私を捕まえようとする二人に手を突き出して止めさせた。

「待ってください。ちゃんと私の質問に答えてください」

「…」

答えるまでは、一歩も引かないと腕組みすると、苛々と指を動かす。

二人は、顔を見合わせていたが、おもむろにロブが口を開いた。

「ここは西都の森のはずれだ」

トントンと叩いていた指が止まる。

「セイト？ヨーロッパのどの辺りですか？」

頭の中にヨーロッパの地図を広げる。が、全く聞き覚えがない。

「ヨーロッパ？そんな地名なんかないぞ」

連れが、不思議そうな顔で言うと、ロブが可哀想なものを見るような目を私に向ける。

「お前、勘違いしてる。ここは、お前たちの言う異世界だよ」

「……そんな冗談は、良いですから」

何か言っているが、頭に入ってこない。

「だから、異世界。お前たちの世界では、よくある話だと聞いたけど」

「はっ？何言ってるんでか。そう簡単に世界に来れるはずないじゃないですか。だって私は普通の女子高生です」

沙弥は顔の前で激しく手を振って強く否定する。

平凡な私に、そんなサプライズは起こらない。

「信じたくない気持ちは、分かるが、これが現実だ」

「……」

異世界が舞台の話は、がたくさんある。でも、それは作り話。

(本当に作り話なの？…)

「現実逃避だな。まわりをを見てみろ。お前が、いた世界と全然違うだろ」

「全く違うわけではありません。似ている所もあります。この草とか」

沙弥は足元に生えている草をむしり取って二人に見せた。名前は知らないがこんな草が生えていた。

「……」

「こりゃ、泣かれるより厄介だな」

呆れた顔で私を見る。そんな顔されても、簡単に納得出来無い。

沙弥は、唇をかみしめながら、拳を握る。

「まぁ〜そう言うことだから、店主のところへ行こう」

話を無理矢理終わらせて、私の腕を掴もうとする連れの手を払った。

「嫌です」

「悪いことは言わない。おとなしく俺達についてこい」

「……」

どうしていいか分からなくて途方に暮れている。だからといって、この二人に素直についていくのは嫌だ。沙弥は二人を睨みつける。

「諦めろ」

「ここに居てもいいけど飯は出ないし、夜になると野生の動物が出る。それでもいいなら置いてくけど」

「だな、夜になったら迎えに来るぜ」

そう言うと二人が歩き出した。

振り返りもしない二人の後ろ姿を見ているうちに、急に不安になった。

自由になった。逃げれる。けど…。

行き場がない。

(……)

しばらく様子を見よう。いざとなったら逃げればいい。

ここで軽率な行動は、不味い気がする。

沙弥は降参だと二人の後を追いかけた。

「分かったわ。一緒に行けばいいんでしょ」

帰ろうとする二人を呼び止めた。

二人の後を着いて行きながら、鞄からスマホを取り出してロックを解除する。普通に待ち受け画面が出た。けど…。

(やっぱ、圏外か……)

諦めてスマホの電源を切ると前から疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ところで、どうして私が女子高生だって分かったんですか？」

「そりゃ、異世界から来たのは、お前が初めてじゃないからさ」

振り返ったサムが、さらりと重大なことを言った。