下準備②【勇】
山に着き、連れてこられた所で見せられたものは、熊だった。
『グオオオオウ!!グオオオオオオッ!!!!』
しかもあろうことか人を積極的に襲ってくる事で有名な背赤熊。それが鎖に繋がれ暴れまくっている。
「フォーさん!いつでも準備オーケーです!!」
「ご苦労」
テレンシオの後ろでググルグとその仲間らしい人が話している。フォーって誰?ググルグの事か?なんだ?ファミリーネームか?
ていうか、どうやって捕まえたんだ。
こいつが出たら村が壊滅するって噂の化け物なのに。
テレンシオがボケッと暴れる熊を眺めているとググルグがやって来た。
「どうだ?でかいだろ。この辺で彷徨いているのを捕まえたんだ。恐らく去年壊滅した村があっただろ?こいつのせいだ」
「あれ盗賊の仕業じゃなかったんか」
「熊が襲った村を漁る盗賊もいる。ハイエナみたいなやつらだ。ほら、これ持て」
ググルグがテレンシオに剣を手渡した。
使い古されただが、手入れをきちんとされているようで刃こぼれも錆びも見当たらない。
「私達はお前の実力を知らない。これからあいつの鎖を離すから一人で戦って倒して見せろ」
「バカでしょ。なんで俺一人?死ぬわ。もう、すぐに死ぬわ」
「害獣駆除してたんだろ?それと同じだ。死にそうになったら何とかするから、まずは頑張ってみろ」
「えー」
ほらみろ勇者になるなんてめんどくさいだけだ。なんで一般庶民選んだ。やっぱり神はアホだ。
テレンシオはめんどくさいと言いながら右手で剣を振ってみる。意外と手に馴染むし、そこまで重くない。鍬の方が重かった気がする。
ていうか。
「俺と親父捕まえるときボコボコだったじゃん。本当に助けてくれるのか不安なんだけど」
「お前…、手も足も早い糞餓鬼と本気で殺しに掛かってくる男、しかも二人とも害獣駆除専門の奴を無傷で捕まえることがどんだけキツいかわかってねーだろ。心配するな。相手を無傷で捕まえる以外だったら得意分野だ」
「あっそ」
これで死んだら恨んでやる。
テレンシオは体の力を抜いて立った。剣を持つ右手も垂らし、アクビを一つ。
そんな様子を見てググルグは少し不安になった。
何の構えもしない。これで本当に勇者としてやっていかれるのか。瞬殺されるんじゃないかと。
まぁ、ヤバそうだったら助けてやればいい。
仲間のゴイダに目配せし、ゴイダが熊に付いている鎖の鍵を解除する。バチンと音を立てて外れた鎖は地面に落ち、自由になった熊は低い唸り声を上げながら目の前で頭を掻くテレンシオに襲い掛かった。




