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参上!飯テロ団!!

 私、飯村麻紀が故郷の漁村から上京して一ヶ月が経とうとしていた。


 どうにか就職した会社は目も当てられないほどのブラックで、今日も終電に揺られている。

駅前の階段ですら膝がガクガクになって、くぐった高架下から見えた月はいつも夢に出てくる。


 自分勝手で飛び出した田舎が懐かしい。お母さん、元気かなぁ。

 母の手料理が恋しい。


「エビフライ・・・・・・食べたいなぁ」


 コンビニのビニール袋片手に夜空へと呟いた。





「ただいまー」


 今日はもう疲れた。風呂入って、ビールに直行しよう。

 あれ?リビングの方が明るい?


「電気消し忘れたかな―――」


 暗い廊下を進む。電気代が心配だ。



「動くな」


 小さく冷たい声が私の足を凍り付かせる。廊下の影が膨らみ、猫の様に飛びかかって来る。



「えっ!?ちょ待ッ―――」


 私の体はいとも容易く押し倒され、意識が途切れてしまう。



「もういいんじゃない?一応知らせとこうよぉ」


「そうだね。外しとこう」


 誰かの会話が一通り聞こえた後、急に視界が明るくなった。重い瞼を徐々に開き、この身に起こった出来事を理解・・・・・・出来そうにない。

 目の前に佇む会話の主達。彼らは上目遣いでこちらを眺めていた。


「あ、起きたみたい!やっぱり可愛い人ー!!」

 一人は小さな女の子。栗色のショートヘアから覗く大きな瞳が印象的な、小4ぐらいの可愛い娘。


「どうしよう・・・・・・ちょっと手荒だったかなぁ」

 もう一人はオロオロする少年。昔見た憶えのある少女漫画の主人公みたいな、黒髪で清潔感のある子。

 この2人、揃って私が押し入れに突っ込んでおいたエプロンを勝手に着こなしている。


 迷子・・・・・・なワケないか。よく見たらここ私ん家のリビングだ。


「えーっと、どうしたのかなボクたち?」

 久々に口角を釣り上げ極力の笑顔で接してみる。


「飯村麻紀さん、ですね?」

 少年が涼やかに笑う。


「え?何で!?知り合い、じゃない!?」

 何コレ怖い。情報漏えいってヤツだろうか。


「えっと、マッキーさんは今年で25歳の独り身さん!トウキョウざいじゅー!好きなことは『こみけ』?でハァハァすること――――で合ってるよね?」


「うん信じられないぐらい合ってるねぇ」

 謎のロリにあだ名を付けられた。恥ずかしさと恐怖が混ざると案外冷静になれると分かった。


「あなた達はいったい・・・・・・?」


「ふっふっふー!よくぞ聞いてくれました!」


「信じる食の為ならばっ!!」

「例え火の中お湯の中っ!!」

「胃に掲げしはテロリズムっ!!」


「あたしショウコ!」


「僕はソルト!そして!そんな我等こそーーー」



「「飯テロ団っ!!」」



 参ったか!と言わんばかりのドヤ顔でシンメトリーなポーズを決める二人。満足げな感じに母性がくすぐられる。

 ともかく、ここは誰が何と言おうと私が家賃を払う部屋だ。やんちゃしたい年頃なのだろうけど、何の縁もない以上彼等には退散してもらおう。


「ねぇ、お家はどこなの?住所わか・・・・・・あれ?」


 電話を取ろうとして気付く、私の体はギリギリ肉に食い込まない程度に椅子に縛られていたのだ。


「ちょっと?な、何これ!?」


「暴れられては困るのでー」


「仮にもテロリストなのでー」


 そうか、そういえば廊下で私を襲ったのは彼?もしくは彼女?なのだろう。

 ついつい資金援助したくなるような可愛い見た目とは裏腹に、俗に言う「少年兵」として訓練されたクレイジーかつ哀しき兵器なのかもしれない。

 決壊したダムの如く、ドッと汗が溢れてくる。


「何・・・・・・する気、なの?」

 勇気を振り絞って尋ねる。


「ん、知りたいのー?とーっても『いいこと』なんだよー?」

 ショウコと名乗った少女は両手を目いっぱいに広げている。


「話しても無駄だよショウコ。マッキーさんには悪いけど仕事に執りかかろう」

 あ、マッキーで固定なんだ―――ってそれどころじゃない。


「いや・・・・・・やめて!」

 彼等は懐からサバイバルナイフを取り出し、じりじりと近づいて来る。幾度も体を捻るが安物の椅子を軋ませるだけに終わる。


「かかれえええ―――!!」


「いやあああああああ!!!」




グサッ




ザクッ!ザクザクッ!


トン!トントントントン!



「へ?」

 生き、てる?



「ナイフ持ってきて良かったねー」


「マッキーさん全然料理してないでしょ?包丁が研がれてないもん」

 ソルトとショウコ、2人の姿は目前のダイニングキッチンにあった。鋭くて、冷ややかで、場違いな凶器を使って器用にキャベツをみじん切りにしている。


「マッキーさんっ!あなたにはおんも~い罪があります!」

 凄まじいスピードで他の野菜を刻みながら、ショウコが私にビシッと指を立てる。


「Msマッキー!あなたは偏った食生活を続け!自らの体を傷付けました!立派な傷害罪です!あ、ショウコ!左手はネコって教えただろ?」


「あっ、そうだったー!おててはニャンニャン!」


「失礼しました。傷害罪です!ですので!これより貴方のお腹を『掃討作戦』致します!」


「お野菜切り終わったー!」


「さんきゅー」



「・・・・・・はい?」

 ワケが分からなかった。彼は私の食生活が乱れていると言いたいらしい。



 こんな非常な状態なのに、私は彼等に一握りの期待を抱いていた。

 


 

注意:かなり不定期な作品です。気がついたら第二話があるかもです。

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