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Prologue ~いつもの場所から~ 2

 「あのー!すいません!お代わりくださいー!」


 「あいよ。」

 武人の声に渋く答える店長。

 大将って呼ぶのがしっくりくるかも。

 今度店長に言ってみよう。

 話をすぐそらそうとする武人をこの俺が逃がすわけがない。


 「おい武人、お代わりじゃない。

  そのお金どう考えてももらいすぎだ。

  俺たちのゼミ、4人しかいないんだぞ。」


 俺たちの所属しているゼミは大学の中で一番影の薄いゼミ。

 ゼミ応募に漏れた連中は他学部のゼミで単位取得することも認められているが、

 せっかくなのであれば仲良し4人で同じゼミに入ろうと、

 武人が全員分のゼミを勝手に申し込み、現在の形までになっている。 



 「うん。そうだけど?」


 「そうだけどじゃない。

  もらいすぎだって言ってるの。

  ちゃんとしてくれゼミ長。

  聡あきらと江美えみもなんか言ってやってくれ。」


 「いいんじゃん?教授来ないしー?

  仁、相変わらず威勢がいいよね。

  あんた前世絶対、赤兎馬せきとばだね。」


  ※赤兎馬:三国志の英雄 呂布が乗っていた馬の名前。


 江美はビールを飲みながらそう軽く流す。

 男勝りな性格でショートカットヘアーに加え、高身長な彼女は多方面から人気があるようだ。

 こいつは高校からの付き合いになる。

 そういえばこいつと昔、三国志のゲームやったっけな・・・。


 「賛成~!

  特に何か課題を出されたわけじゃないんだろ?

  武人君?」


 聡も完全に武人サイドだ。

 聡はフットサルサークルの飲み要員。

 性格が武人と少し似ているからか武人と馬が合うようだ。

 俺にとってはケツをふかなきゃいけないやつがもう1人増えてしまっただけなのだが…。

 天真爛漫というか何も考えていないのほほんとしたやつである。

 意見は基本的に「me,too」。

 ただ、悪意はないし、根はいいやつだから憎めないやつ。

 嫌いじゃない。


 「特にないってさ。

  というかもっとほめてほしいんだけどなー?

  実は、教授がいけないっつーことで、旅行自体なくなるところだったんだぜ? 

  みんなが予定を合わせてその日のために集まろうとしているのになんで教授はそんなことが平気で言えるんですかってそれを涙ながらに食い下がってさ。


  決定打は仁、お前だよ?


  仁はめちゃくちゃ優秀じゃん?

  成績も上位30人にも必ず入っている。

  レポート提出すればA評価ばっかり。

  教授のお気に入りだしさ、仁がよく教授の授業で手伝いしてるけど、

   『まさか仁を巻き込むつもりじゃないでしょうーね?

    教授がこられないならせっかくのゼミ旅行は仁に羽伸ばさせてやる旅行でもバチは当たらないはずです!』

  っていったんだよ。

  そしたらその言葉がこういった形にかわったと。

  なぁ、仁。

  今回ぐらい「合宿」じゃなくて遊びだけに『旅行』行くのもいいんじゃないか?

  もたもたしていると大学3年の夏ももう終わっちまうぞ?」


 武人がそこまで言ってくれるのはうれしいが、いまは教授に銀貨10枚で売られたキリストの気持ちといえばいいのだろうか。

 あれは確か30枚だっけか。

 銀貨に比べれば高く売られているわけなのだが・・・。

 どうでもいい。

 俺は釈然としない!


 「まぁでも、仁がそういう気持ちもわかるよ~。

  この4人ってもう見慣れているメンバーじゃん?

  そして行き先も、大学の提携施設。


  んー。

  物足りない!

  スパイスがほしい!

  終わりを告げつつある夏の終わりに秋を感じさせるゆず胡椒のようなさわやかさと

  山椒のピリリと辛いパンチ力を兼ね備えている!

  そう!

  それは女子の存在!


  すなわち誰かかわいい女の子に一緒にきてほしい!

  なんなら今すぐにここにきてほしい!!」


 武人がビールジョッキを高らかと掲げ、ジャンヌダルクよろしく今すぐにでもここにいる全ての男を鼓舞しようとしたその瞬間、

 対面に座っているピエール・コーションが裁判所から雷のような返答を返す。


 「武人」


 ものすごい剣幕で江美が武人を見ている。

 まずい。

 ここはオルレアンではない。


 「まぁまぁ、これもいつものことじゃないか。

  江美も軽く流せよ。」


 いつも俺が仲裁に入っている気がする。

 武人はもっと江美の気持ちを考えてやった方がいい。

 たしかにこの中でだれよりも「かっこよすぎる」ことは江美以外の誰もが気づいていると思う…。

 江美自体そのことに自覚はあるが、全ての女性はちゃんと女性扱いしてほしい相手はちゃんといるものだ。


 「女性増やしてもいいね!

  お金もあるし誘ってもいいじゃない?

  仁君もそう思わない?」


 聡は非常に楽観的だ。

 いつも流れに身を任せて楽しんでいる。

 これ以上笑顔で油を注がないでくれ。

 そしてその火の粉を俺に振り掛ける。

 おれ、やっぱりこいつ嫌いかもしれない。


 「だろ?やっぱり聡はわかってるな!」


 武人が水を得た魚のように動き出す。

 そこに武人が合間をあけるはずがない。


 「江美も男3人、女1人じゃ寂しいだろ?女風呂一緒にはいる人必要だって。」



 あーあ・・・。


 俺この場からもう逃げていい?


 「やかましいんじゃ!

  大きなお世話じゃ!

  ボケッ!」


 江美は起こると言葉の語尾が荒くなる。

 これは本当に怒っている時。

 そろそろやめさせないと。

 江美がもうすぐ『たたかう』のコマンドを押す。

 カーソルは既にその位置にある。

 教会に復活させにいく役目はいつも俺だし。

 死人が出手からでは遅い。

 早く何とかしないと。


 「んー。でもそれもそうか。」


 「「「え!?」」」


 江美の態度の激変に動揺を隠せない一同。

 俺は目を開けながら夢を見ている?


 「いいよ。

  1人、心当たりあるから誘ってみる。」


 「おいおい、江美。

  本気にすんなって、武人のいつもの悪ふざけだって。」


 フォローは入れたが、江美はそれでもやめる気配はない。

 矛をおさめたかと思ったが違うのか?

 少しいこじになっているような気がする。

 すぐに携帯をとり出し何コールかした後、いきなり話し始める。


 「あっ!いきなりごめんね!

  沢谷江美ですけどー、、、うん、、いきなりで悪いんだけどね、

  8月××日から二日間空いてたりする?、、、

  うん、、、ゼミで旅行行くんだけど、泊まりでさー。

  男は三人なんだけど女、私一人だし一緒に言ってくれる人探してるんだけど、、

  え!?大丈夫、大丈夫。

  今回教授いないから適当な感じでさー。

  うん、、、大丈夫だって!

  私が一緒なんだし。

  来てくれると私も心強いな、、、

  本当!?やったっ!!

  ほんと助かるよー!

  ありがとう!

  詳細はまた連絡するね!、、、

  うん、、、はーい。

  じゃねー。」




・・・・プチッ




  「江美・・・?」


 

 俺は江美のほうが赤兎馬せきとばが似合うと思ってしまった。


 「これで3対2になったよ?

  私も寂しくないし、あんたも文句ないよね?武人?」 


 コトリと優しく携帯を机に置き、見下ろすように武人を一瞥する江美。


 「あ、、、うん、、、さすが江美だね、頼りになるよ、。」


 武人はたじろいでいる。

 本来であれば「3対3にならないとバランス悪い!」って言ってるはずの武人は

 『逃げる』のコマンドを連打している。

 HPも残りわずか、コマンド枠は赤色に染まっているだろう・・・。



 ただ「逃げられなかった。」



 「店長、から揚げ大盛り頂戴!!

  レモンかけまくって!!」


 「あいよー。」


 江美の暴挙に店長のいつも変わらない返事が続く。

 ここのから揚げは普通のサイズで10個弱出てくるが、大盛りとなればそれはもう…。

 こうなった江美は手に負えない。

 江美のファンは多いが、実は大食いであることを知ってるのは聡と武人と俺ぐらい。

 江美もそういうところを武人に見せなければ女性扱いしてもらえるのでは思うが、

 いや、これは違うか。

 「武人の前だから」が正しいのか。。


 まあいい。今はどうにかこの場を収束させないと。


 「まぁ、もう誘っちゃったからしかたないんだけど、もとはといえば俺があれこれいったからこうなったんだよな・・・。すまん。」


 「あー、いつものはじまった。」


 「うんうん、やっぱ仁君はそうでなくっちゃね!」


 「仁。私が勝手に誘ったんだよ?あんたが謝ることじゃない。武人が謝れ。」


 「まあ、でも、仁。いいんだな?合意したも同然だぜ?その発言。」


 「ちがっ。そういう意味じゃなくてっ・・・。」ミイラ取りがミイラになってしまった。


 「仁君も反省していることだし、ここはみんなで仲良く旅行いくってことでいいよね!ね?みんなー?」


 「聡に賛成!」


 「いいよー。店長から揚げまだー?」


 はぁ・・・。せっかくゼミ合宿がなくなるのなら、バイトも入れただろうし、

 稼ぎ時の塾の夏期講習のバイトもあった。

 そろそろ就職活動だがまだ動き出せていないから短期のインターンにも行きたいと思っていたんだけどな…。

 これ結局誰もプランニングしないだろうしし、このままだと、グダグダな旅行になることはなんとなく想像がつく…。


 「~~~。分かったよ・・・。行くよ!ゼミ旅行!ただの旅行!江美が誘った子にも悪いだろ?」


 「よっしゃ!仁のヤル気スイッチもオンになったことだし、今日はもっと飲もうぜ!」


 「ははっ。武人君のスイッチも入ったみたいだね。ところで江美ちゃん、もう一人って誰がくるの?」


 「進藤しんどう 紅葉くれはちゃん。」



 「「「え!?、、、」」」


 2度目の唱和。


 一同思わず声を上げてしまった。


 まさか江美がこの子と友達だとはおもわなかった。


 江美は交友関係が広い。


 ただ、親しい友達は俺も武人も大体知っていた。


 いまとなってはそのはずだった…。


 確かに武人に怒っていたたこともあるのだろうが、あまりにもそのチョイスはこのメンバーではもてあますだろう…。


 江美以外の男一同、酒を飲む手がとまり沈黙する。


 やっと届いた唐揚げをまるで一週間獲物にありつけなかった狼のように食べる江美のバリバリという音だけがその場にこだまする・・・。

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