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Prologue ~いつもの場所から~

 まだまだ暑さが厳しい夏の終わり。

 俺は夕方からやきとり居酒屋「百八ひゃくはち」に向かっていた。


 ここは俺が通う大学からすこし離れた、霞ヶかすみがおか市にある行きつけのお店。

都心近郊に展開している店らしいが、霞ヶ丘市では1店舗しかなく、あまり有名ではない。

特色としては売上目標を達成することを条件に店独自の特色を出してよいことになっているらしく、各店舗オリジナルな趣向を施すことが可能となっているらしい。

最近ではよく見られる傾向かもしれない。

にもかかわらずここの店は駅から少し離れているためか、人がごった返しているところは見たことがない。


 わいわいがやがやするようなにぎやかなお店とは反対側にある、落ち着いた、というよりさびれたという表現が似合う雰囲気のお店。

この名前も煩悩にまみれてそうだし。

初めて見た時から気軽に入れる雰囲気じゃない思っていたが、自分がいま住んでいるところからは近く、帰りがけに1人だけで仕込みをしながら客の来店を待つ店長の姿をよく見ていた。


 ある日魔がさしてしまった。

学生には身分不相応かもしれないそのお店にお酒の力を借りて勇気を出して入った。

これが大学入学から3か月ぐらいたったかな。

不愛想な店長と客は俺ひとり。

ただただ沈黙が続き、思春期の真っ只中の親子関係のような何もしゃべらないが、お互いを気にしている様子が続く。

そうこうしていたら自分に勢いをつけていたはずの酔いがさめてしまった。


 「前からここ来たかったんです。」重々しい雰囲気を自分から破った。

「若いのにありがとね。なんでも好きなもの頼みな。作れるものであればなんでも作るよ。ゴーやチャンプルーくうか?」

ここは沖縄料理屋ではない。焼き鳥のタネ(これから焼く、生の状態)はたくさんあるだろうに。

ただ、店長のこの言葉にやられてしまった。

ゴーヤチャンプルーって。

俺は線の細いしょうゆ顔、かつ色白。

俺からそんなに南国の風がでてるのかな。

承諾していないうちに料理が出てきてしまった。

お昼の残りかなにかだったのだろうか。

ただ、そのゴーヤチャンプルーがめちゃくちゃうまかった。


 そんなこんなでよく利用するようになり、回数を重ねた結果、今は入店するとすぐに店長も重い口を開けてくれるようになった。

通っている特権なのか、1人のときはカウンターだが、誰かと一緒に来たりした時はいつも店の奥にある6人掛けの座敷の席を使わせてもらえる。

入口からだと見づらい位置にあり、ここに来るお客はだいたい1人か2人が多いため、カウンターが多く、率先してそこに座ろうとは思わない。

いまではその座敷席は俺の専用ゾーンのようになっていた。


この日は大学のゼミであり、人生最大の悪友、武人たけひとに急に呼び出された。

中学からの付き合いになる。

大学まで続いているがおそらくこれからも続く腐れ縁。

テニスサークル所属。

武人は飲み会しかしないため、参加は不定期。

軽口に加え、基本的にチャラチャラしている。

結構いい顔立ちなのにあまりもてないらしい。


「もしもし、仁?今日の夕方から百八ひゃくはち集合できるか。大事な話あるから絶対来てくれ。

 いつものメンツで集まるから。」―――プッ。


いつになく声のトーンが低い。アイツかもしくはゼミメンバーに何かあったのかもしれない。

特段おいおい彼女なんかいなかったろ、アイツ…。

授業が終わり、夜のバイトの無理言って変わってもらった。

悪友とはいえ、何かあったら助けになりたい。

駆けつけないとまずいと直観的に思ってしまった。

それが運の尽きだったのかもしれない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「かんぱーい!!」

「おい!武人!聞いてるのか!?」

俺は武人に噛みついていた。


 「うるせーな。聞こえてるよ。なんだよ、仁。」


 「いきなり呼ぶから急いで駆け付けたのに!

  ゼミの合宿打ち合わせだったら別でもよかっただろ!!

  バイトまで変わってもらったのに…。

  そろそろ決めないとだめなんだろゼミ合宿。

  酒飲みながら話したらちゃんとした計画立てられない。

  ちゃんとクラス教室とか、研究塔のゼミ室とかでやるべきだろ、こういうの。」


 「もうー、仁はだから堅物だって言われんだ。 

  旅行だぞ?

  楽しいイベント盛りだくさんにするんだぞ?

  だったら楽しい場所で楽しいことしながら決めたほうがいいんだよ。」


 「おい。旅行じゃない。

  ゼミ合宿だ。ゼミ合宿の趣旨はき違えてるだろ。

  教授もくるんだぞ。

  ただの旅行じゃない。

  学問するのがメイン。

  確かに遊びはするがレクレーションの位置づけ。

  あくまでおまけだ。」


 「あ、そっか。仁は知らないのか。」

 

 「ん?」

 

 「今回のゼミ合宿、教授こないぞ?」


 「え?」


 「まぁ、ゼミ長の俺にしか言われてないんだけどさ、

  教授は学会発表の締め切りに間に合わないらしく、

  ゼミ合宿なんかしている場合じゃないってさ。

  ほれ?

  しっかりと旅費交通費はもらってんぞ?」


 武人の手にはしっかりととある文豪が書かれている札が10枚ばかり握られていた。


 「おい⁉

  こんなにもらってどうすんだ⁉

  というか、聞いてないぞそんなの‼」


  旅費交通費に加え、交際費まで入ってる金額だ。


 「だって仁には今初めて言ったんだもーん。

  ほーんとあの教授もいい加減だよな。」


 「その教授から大金巻き上げてるお前が言うな…。

  この野郎。。。」


 今回泊まるのは俺たちが通っている都心の大学から少しは慣れた海沿いの隣接する県。

 毎年ゼミで利用する施設は大学の契約施設の中から選択することになっている。

 山方面と海方面の両方が選べるのだが、「やっぱり夏は海だろう!」と言い出した張本人の教授が今回自分の都合で来なくなった。

 大学教授ってみんなこんななのだろうか・・・。

 ただ、それにしても羽振りが良すぎる。

 武人が多少ゆすったんだろう。


 ゼミ合宿は1泊2日。

 費用としては宿泊だけならひとり一泊3000円ぐらいで泊まれる。

 その日の夜と翌日朝食つき。

 交通費は大学の部活連盟が契約している旅行会社にレンタカーをチャーターして向かうため、ほぼガソリン代のみ。

 高速をのったとしても行き返りの交通費はみんなで割ると一人3,000円ぐらいが妥当じゃないか。

 法人単位で契約しているため、毎年コンスタントにリピーターを捕まえられるうえ、公益法人のため、

 普通だとまぁまぁするであろう施設が必要最低限の費用で利用が可能なのだ。


 ・

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 そんなことより、どうすんだ、この大金…。

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