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日録ログダイアリー  作者: 鏡 もち
19/20

1月28日 かわりばんこ

昼下がり、私は散歩をしていた。いつの間にか目の前には見知らぬ男がいて、なんとなくつかず離れず歩いていた。

踏切の真ん中に来た時、男は立ち止まった。少しそのまま待ってみたが、一向に動く気配がなかった。


男はこちらを振り返ることなく、おにぎりはないかとたずねてきた。ポケットを漁ったが、なんの食べ物も持っていなかった。

「そうか、詰んだな」

諦めたように、男は肩を落とした。そしてそのまま何も言わなくなった。


見れば線路を超えるまでは、あと三歩。私は男に進むよう促した。

「人畜無害そうに思えたが、人殺しが趣味だったとは」

男はからかう様に笑って、自分のヒットポイントが残り1であること、そして満腹度がゼロになってしまっていること、その結果あと一歩で自分は死ぬことを説明した。


全くもって意味不明だったが、とにかく彼の主張は、どの道死ぬからもうしばらく余韻を楽しませてほしいということだった。


私は焦り始めた。線路で立ち止まってもう10分以上。電車が迫っている様を想像し、震えた。もう付き合いきれないと思い、男の脇を抜けようとした。


体が動かなかった。足が地面に縫い付けられたようだった。噛み殺したような笑い声が耳に届いてきた。

「何をしているんだ。俺が動かないとお前は動けない」

相変わらず彼の話は分からないが、私が動けないのは本当だった。焦りはどんどん募っていった。

私の感情を読み取ったのか、男はゆったりとした動きで線路の先の先を指差した。

遠く、こちらに向かってくる電車を捉えた。瞬間、背中を冷たいものが走った。逃げ出そうともがくが、それでも足は動かない。


「平気だ。お前は死なないし、俺は死にたいときに死ぬ」


良く見てみろと男は空を指差した。頭上にカラスが止まっていた。空中に。

私は予感がして、電車を再び見た。やはり、動いていない。


「だから、安心」

ターン制だからと、男は陽気に言ったようだったが、どことなく陰を含む響きだった。


踏み切りは、まだ、鳴らない。

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