1月23日 ドアの向こう
お腹を壊してしまった。カロリーを排出しつつ快方には向かっているので、脂肪エンディングは免れそうです。
午後から所用で外出。トイレを転々としながら目的地を目指す。
あまりの回数の多さに警官に職質され「うんこで帰り道に目印を付けてるんですか、石かパンを使いなさい」などと叱られないかとビクビクした。
町外れの公衆トイレに駆け込んだときのこと。それは長らく誰も使っていなさそうなトイレで、女性側は入口から封鎖されていた。
中は薄暗く、電気も付かない。汚れがひどく、スプレーによる落書きが所狭しとなされていた。
天井が妙に高いため足音がよく響く。正直腰が引けたが、直腸のものは引いてはくれない。
個室へと駆け寄るが3つの個室のうち手前2つは便座がなく、奥の個室はドアが開かなかった。
ノックをするが返事はない。脂汗が顎からしたたり落ちていった。
20分は待っただろうか、私は限界を感じた。
そして考えるより先に体が動き、2番目の個室のタンクによじ登り、一番奥の個室が空であることを確認した。
天井の隙間より身体を滑り込ませ、私は内部へ降り立った。
間一髪、間に合った。
個室の中は完全な暗闇。手探りでカギの部分を探る。開けようと試みるも、鎖が巻いてあるのがわかった。
ドアを探る際、長細い紙が張り付いていて手に当たった。よく見ようとドアに顔を近づけた瞬間。
「コンッ、コンッ」
トイレに誰か入ってくる音がしただろうかと自問しつつ、私は、ノックを返す。
「コンッ、コンッ、コンッ」
ノックは止まらない。よほど焦っているのだろうか。その割には扉の向こうに荒い息遣いは感じない。
私は、もう少し待ってほしいと外に呼びかけたが聞く耳を持たない。
両手でドアを叩いているのか、ノックは激しさを増す。ノックのたび、留め具の緩くなった扉はガチャガチャと外側へ動いた。
そのうちすぐそばで子供の声が聞こえてきた。開けてよ、開けて、と泣きながらドアを叩いている。気持ちはよくわかったが、こちらはまだふんぎりがつかない。聞き分けのなさに次第に腹が立ってきた。
「早く入りたいのは分かるがいい加減にしろ!蹴るぞ!」
ちょっとした脅しのつもりで、少しだけドアを蹴った。
が、経年劣化と度重なる打撃によりドアの耐久は落ちていたらしい。留め具の部分が外れ、勢いよくドアは倒れていった。鎖が床に落ちる耳障りな音も続く。
しまった。私は目を覆った。
当然聞こえるであろう叫び声が上がらない。恐る恐る顔から手をどけると、正面にある小用の便器が目に入る。
子供は、どこにもいなかった。
個室を出たとき水が流れる音に交じって「ありがとう」と聞こえた気がした。携帯のライトを付けてしゃがみ込み、壊れたドアを照らしてみた。
先ほどのドアの紙はお札であることが判明した。と、同時にドアについた夥しい小さな手形も浮かび上がった。
それらは全て、ドアの内側に付いていた。