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1月21日 胸がすく話
安心して下さい、吐いてますよ。
午前中、ずっと自宅のトイレで過ごした。
得たいの知れない甘味成分を排出するためだった。
昨夜、今まさに食われるという刹那。
「やった!鬼退治できるぞ!」という声と共に、犬と青年がなだれ込んできた。
犬が異形に襲いかかっている隙に青年は私を解放し逃がした。
彼の服装にはどことなく見覚えがあるような気がした。
あんまりトイレで咳き込み、排出を繰り返し過ぎたのか、胸にぽっかりと喪失感があった。
混沌とした便器の中を覗くと、甘酸っぱいかおりの向こうに、赤黒い何かが見えた。
それは肺の片方のようだった。
慌てて取り出そうとしたが、転んでしまって掴んだのが水洗のつまみだった。渦が全てを飲み込んでいった。
胸がすーすーします。でもまあ、肺は元々2つありますから。
安心してください、まだ入ってますよ。