7.シード
雄馬は目を輝かせた。日高は淡々と説明を続けた、それはとても奇妙な『生き物』だったのである。
「まずはマンモスの話をいたしましょう、サンプルの切り取られた足の一部分は跡形もなく再生されていました。それは善三様がご指摘の通りでした、しかし詳しく調べるとさらに驚く事が解りました。マンモスはつい最近まで『休眠』していたらしいのです。マンモスも現在の象たちの様に長生きだとされていますが、まさか数万年も生きるはずがない。どうやら数百年に何度か活動をし、また長い休眠をとり続けていたのでしょう。その原因がこの『生き物』ではないかと推測できます」
「何故そう思う?」
雄馬は日高にその根拠を尋ねた。
「サンプルはここへ運んで数日で完全に死んだのです。体中の『ゴラゾーム』は消え去っていました。撤収していたのです。サンプルを生かしていた細胞が、これがマンモスの最期です」
頭部を残し明らかに化石化したマンモスの死体が、モニターに映し出された。
「何故、頭部は化石化していないのだろう、日高それで?」
「はい、頭部を調べた時に見つけたのが最初にお見せした『シード』です」
「あれがサンプルの頭部にあったのか」
「正確には脳の最下部に固まって見つかりました」
さすがに彼は雄馬の後輩である、その「シード」がサンプルの細胞を再生するゴラゾームの元だと推理しそしてひとつの仮説を立て検証したのだ。
「シードはマンモスの死期を悟り、次の宿主を見つけようとしていたのです。マンモスの脳の中で」
「次の……、なんと言った日高」
「宿主だと。これは太古の『寄生虫』に間違いないでしょう」
「パラサイト?」
「ええ、室長、この種は言わば『パラサイト・シード』といったものです。」
「生き物のくせに種だというのか」
「これをご覧ください、もしやと思いシードを数種類の培養液に浸けたのですが、全て失敗しました。そこで実験用のマウスに与えてみました」
「なるほど、マウスに食べさせようとした訳か。しかしそれではシードは砕けてしまうと思うが」
「ええ、飲み込ませようとしたのです……」
モニターがその実験を映し始めた。マウスの側にシードのシャーレが置かれて蓋をされていた。所員がスポイトを近づけ、吸引のためにその蓋に手を伸ばそうとしている。突然その蓋は跳ねとんだのである。
シードは跳ねとび、マウスに「跳びかかった」。獲物に跳びかかる、それはそう表現するしかない。
「シードは次の宿主を見つけたのです。いつの間にか発芽した鞭毛を使い、マウスに跳びつき、その中で成長を始めたのです。そして数日で宿主を食い尽くして死にました。それがお見せした、その『生き物』です。
雄馬はもう一度「シャーレ」の中の死んだパラサイトを見た。マンモスでは長く生き続けていた「パラサイト」がマウスでは数日で死んだのは何故だろうか。日高はその彼の疑問に答えてくれたのである。