63.地球の意志
ラビは確かに優れた能力を持つ、だがそれは自分の身を守るためのものだ。ジグの持つのは戦うための能力、地球最強の生き物、恐竜のものだ。しかしラビは全くひるまない。ジグのよくしなるムチのような尾も、繰り返す鋭い爪の打突さえ、まるで蝶のようにかわす。一度でも捕まればひとたまりもない、ラビはそれをよく知っていた。
そしてもう一人。
「なぜお前はそんな体で俺に戦いを挑む。ルツともあろう者が、ティラノにでも変異できように」
しかし無言のラビは、ジグに隙が出た箇所をバックキックするばかりだった。
「ふん、感じない。無駄、無駄、無駄」
バニー・レディーが肩で息をしながらこんなことを言った。
「あなたたちの最盛期、あの月が連れていた衛星が地球の引力に捕まった」
「ああ、一つの大陸に衝突しその大陸ごと消滅した。粉々に砕け散ってな」
「その衛星こそ、実は私たちの仲間が最初に移り住んだ場所だった」
「なんと言った、ルツ」
「私たちの仲間は、この星に引き戻されたのよ」
「仲間たちが引き起こしたというのか、最強の恐竜を絶滅に追いやったあの突然の氷河期を……」
「氷河期を起こさせたのはこの地球の意志なのかもしれない」
ーこの星は恐るべき力を持っているー
ルツはジグにそう言いたかった。しかし、ジグは聞くまでもなく、それを悟った。
「ふふん、まるでシードの自己防衛の力とでも言いたいのか、この星の恐竜を滅ぼさねばならないというのか」
「違う、氷河期が起こったのは全くの偶然。シードにこの星を再生させようとしたのに違いないわ」
「再生だと?」
「この星はまだまだやり直せる、その先に破滅の日があろうとも決して逃げるべきではないと」
「そんな馬鹿な、星がまるで生き物のようにか、はははっ」
「ジグ、私のちっぽけなこの体でもあなたには負けない。行くわよっ!」
再びラビが猛ダッシュで駈け出す、ジグは鋭い顎を開き二度三度とその歯を剥いた。それは虚しく空を噛む、しかしついにその端にラビの長い耳が引っかかった。
「くっ、しまった」
「クククッ、ご自慢の耳が仇となったな、しかし不味くて食えたもんじゃあない」
引きちぎった片耳を吐き出し、アロサウルスは勝ち誇って言った。片耳のままバニー・レディーが叫ぶ。
「86ラビリンス!」
バニー・レディーがジグの周りを凄まじいスピードで走り出す。ジグを一周すると今度は力尽きた仲間たちを周回し、再びジグの周りを回る、いわゆる「8の字」回りだ。
「1.2.3.4.5.6」
回り終えたラビは走るのをやめた。あっけにとられ言葉もなかったジグがそれを見て笑い出した。
「ハハハッ何かと思えば、そんなことか、あいにくそんなことでは目すら回らないぞ」
「これであなたはもう、捕らえられた」
「何だと、誰に捕らえられたというのだ。片耳のお前にか?」
「もうこの中からジグ、あなたは外に出ることはできない。そして消滅するだけ……」
「馬鹿馬鹿しい、86の効果など経験済みだ、それに俺の体はこの通り何の変化もない」
アロサウルスはその前足の爪を開き、そこから数歩進み出ようとした。
「ジュッ」
焦げた匂いとともに、アロサウルスの前足が消え去った。




