62.迷宮
62.迷宮
美樹の体を借り、話し続けていた由樹もついにその役目を終えた。
「ズリュルルル」
哲生の体からついにシードが抜き取られた、始祖鳥「アルケオプテクリス」の持つ連綿と続く遺伝子情報はジグの冬眠していた間の地球の歴史とともに「亜矢」の体に異様な音とともに入りこんでいった。そしてその引き換えに哲生は弱い鼓動を再び打ち始めた。
「さすがだ、哲生。シードの自己防衛本能に呼応して、自分の細胞を仮死状態にできるのか」
「ドビシュッ」
ラビの体に今度は数本の触手が突き刺さった。わずかな痙攣とともに、ラビは手足を短く縮めた。
「お前も、そんな姿にならなければ子ウサギのまま死ねたものを……」
同様にラビのなかのシードが抜き取られていく。その姿を哀れむジグの言葉も、既にラビには聞こえない。ただその耳は異常なほどにぴんと立ち亜矢の方に向いていた。
「さあ、残ったのはルツ、お前一人だ。亜矢の中に来い、そしてシノを迎えよう。そのうちシノの気も変わろう、人間どもにはこの地球をくれてやる、滅びの時までせいぜい楽しめば良い」
ジグはサラの中にわずかに残るルツに向って話しかけた。サラが立ち上がり歩き始めた、しかしその方向は亜矢には向いてはいない。
「どこへ行く、ルツ。シノは俺の体の中にいるのだぞ……」
サラはその声が聞こえても、方向を変えはしなかった。ジグには彼女の気持ちが伝わったのだ。
「あなたは、私。私はあなた……」
「ルツ、俺と戦うと言うのだな。おまえの選んだ体に俺は勝負を挑もう、俺はお前、お前は俺だと言うのならきっといい勝負になるだろう……」
ジグはシノが目覚めない訳に薄々気が付いていた。「星の最期」それは必ず来る。たとえどんなに科学が進もうと、それはこの絶妙なバランスのなかにある星の上に偶然に生まれた、はかない生き物がなしたものだ。宇宙の時間のなかでは「滅びのとき」までの一瞬の時間が「86」エイトシックスの研究によってわずかに伸びようと一体なんの意味があろう。
(シノが目覚めないのはきっとそんな事ではないだろう)
ジグの中に「アルケオプテクリス」の記憶が入り込む。幾度となく襲う彗星は新たな生命体さえこの星に届けた。地軸が傾く様な巨大な惑星の衝突。偶然捕らえた衛星もひとつや二つではない。
「その繰り返しの中、絶滅と繁栄を繰り返し、俺たちは何をするのか。何のために……」
その答えをシノはつかんだに違いない、ジグは目の前のサラがルツの力を連れて小さなウサギに入り込むのをじっと見ていた。そして緑色のそれは勢いよく跳び上がった。
「ジグ、お望み通り私が相手をするわ。ラビアン・ラビアンス、バニー・レディーがね」
「そうか、やはりお前か。来いバニー・レディー!」
そう言うとジグはついにアロサウルスに変異した。
「さすがに亜矢の体では、お前も本気は出せないだろう。それにこの星で最強の生き物に食われる方がルツも浮かばれるだろう。心おきなく戦ってやろう、バニー・レディー」




