59.失ったもの
「ルツ、俺には理解できない、何故この星を離れる事ができないのだ。シノはまだこの娘の中に残っていると言うのに……」
「シノはもうこの星を離れる事ができないのよ……」
「この星を離れる事ができない? シノを目覚めさせ、俺たちが集めたシードを月に送る。ルツの仲間たちの所へ運ぶ事がすでに叶わないだと。俺はあの日からずっと長い間、仲間のシードを待っていたのに」
あの日……。
ルツはジグがすでに「死ねない体」になっている事を告げると、自分は北の地へ向うと彼に言った。それを聞いた彼はいつものように頷いた。
「俺も一緒に行こう、ルツ。少しは頼りになるぞ」
「そうね、でもあなたにはここに留まリ、して欲しい事があるの」
「俺にして欲しい事?」
「そう、私のように北に集まろうとするシードをその体に住まわせてやって欲しいの」
「俺の体に集めるのか?」
「嫌? 私と同じようにその体に住まわせるのは?」
「そうか、俺はやはりあの時原人どもに殺されたのか」
「私が来るのがもう少し早ければ、ごめんなさい、ジグ」
「ルツ、いや俺は薄々気付いていた。そうか原人どもはあの時、俺をちゃんと仕留め、とっくに食っちまっていたのだな、いったい俺はどのくらい経って甦ったのだ?」
「そうなの、気付いていたのね。あなたが甦るのにそれほど時間はかからなかった、86回同じ季節が過ぎたくらい」
「86回?」
「それがパラサイト・シードの成熟周期なの」
「成熟周期だって?」
「そう、あなたの体を作っている細胞が元の体を作るまでの期間。そしてその後その体で行動し、シードは再び花粉として体外に拡散する」
「何だ、ルツそれなら俺はちゃんと死ねるじゃないか」
ジグは少し安心した。
「ううん、ポーレンはまたあなたに戻る。その繰り返し、永遠に続くのジグ。あなたの記憶は決して消え去りはしない……」
その時のジグには、ミトコンドリアの働きはもちろん、知恵が蓄積されていく事の理解などできる訳もなかった。ルツにはそれきり会う事はなかった。その地でシードを待つ日々が続いた。ジグはその頃を思い出し、もはや息もしないラビとアルケオプテクリスを交互に見た。そして目の前の少女に言った。
「俺には君と同じ、いや俺と同じシードを持つ者はすぐに解った。もちろんそれはシードを持つそいつも同じだった。言葉は要らない、そのほとんどは人の体だ。ただ中には奇妙な姿の者もいた、獣の姿の者もな」
「そこに横たわるアルケオプテクリスもいたでしょう?」
「さあ、どうだか忘れてしまった」
「きっとあなたはその始祖鳥にも会ったに違いない、そして知ったのよ。まだその時が来ない事を、そしてあなたは氷河の残した底知れぬクレパスにその体を閉じ込めた」
「何故そんな事が解る、ルツ、君は俺を見ていたのか?」
「私はあなた、そしてあなたは私」
「俺がルツ。君だと言うのか?」
「そう、私が戻ったとき、あなたは消えていた。死ねない体を停止させた、永久凍土層で生命活動を止めようとした。そのために長い冬眠を選んだ」
「……それは記憶に無い」
「そうね、でもきっとあなたは私が探していたモノの役目に気付いたのよ」
「俺が消えた後、ルツが持ち帰ったものは、いったいなんだったんだ?」
「マスター・シード。緑のイモムシ……」




