51. 『始祖鳥(アルケオプテリクス)』
「ちょうど良い、まとめて片付けてやる」
体中の剛毛を揺るがしながらジグは一回り小振りになった。そして二足歩行に体細胞を変異させた。ニケが真っ先に跳びかかった。
「ギャン」
ジグの肩の辺りを狙ったニケは、その牙が届くより速くマンモスの長い鼻に払い跳ばされた。一度起き上がったもののその腹は大きく裂けていた。
「おやおや、怖いもの知らずの犬だねえ、飼い主はとっくにあたしに取り込まれたのにねぇ」
蛇女はそう言って笑った。ジグの目がキラリと光った。
「飼い主? サラのことか」
蛇女は、するすると起き上がれないニケに近づくと、大きな口を開けた。
「どれ、お前も食っちまおうかい?」
しかしニケはその場から動こうとはしない、裂けた腹からは不思議なことに血の一滴さえ流れ出してもいなかった。まるで蛇女を誘うように、長い尾を振る始末だ。
「調子に乗るんじゃあないよっ!」
蛇女はニケの腹に食いついた。
「うぎゃああああーっ」
叫び声を上げ、蛇女はのたうち、ついに倒れた。ジグが美樹と亜矢をかばうように立っている哲生に言った。
「86(エイトシックス)いや、ひょっとしてあの犬が持っていたものは……」
「サラの母親が持っていたシードだ、お前たちがオロスで血眼になってさがしていたものさ」
だがジグは落ち着いていた。
「やはりな、あの蛇女が知るはずもないオオカミ犬のことを記憶していたということは、おそらくサラもそして趙も蛇女の中でまだ生きているということだろう」
「ジグ、お前の言う通りだ。趙もサラもそしてサラの母親も死んではいない。シードの変異細胞がその体を守っているからな」
哲生は上着を脱ぐとジグに対峙した。そして背中越しに美樹にこう言った。
「美樹、俺は哲生でなくなってしまったのさ、済まなかった今まで黙っていて」
そのモンスターは小型の肉食恐竜「ラプトル」に似ていた。長い尾には体毛が発達し羽状に進化を終えていた。ジグと同じく哲生は更にもうひとつの段階へと変異をした。その後ろから美樹が哲生の背中をけり跳ばした。
「そんなのとっくに知ってたわよっ、さっさとジグを倒しなさい!」
「まさか、テツがシードを持っていたなんて。信じられない、しかもあの姿は『始祖鳥』、現在も生き続ける恐竜……」
ようやく、ラビが立ち上がった。足に力が戻ったのを確認し、ニケの元に近づいた。既に蛇女の中では新たな鼓動も打ち始めていた。ニケが蛇女の口に首まで頭を入れ、引き出したのは趙だった。
「レディー、手を貸してくれ」
ラビが引き出したのはサラ、そして趙が手を取ったのは美しい女性だった。
「あれがジグ、最後の敵なのか?」
「そう、それに立ち向かうのはテツが変異したアルケオプテクリス」
「彼もシードを持っていたのか?」
「おそらく私たちのものと同じか、それ以上のものを……」
マンモスの長い鼻をかわしながら哲生は手にしたラダーナイフを分厚い皮膚に打ち込む、しかしそんなものではジグはびくともしない。趙が援護に回ろうとした。
「俺に力が戻らない、何故だ。何故変異しないんだ、ラビ」
「私ももうじきあなたと同じになるわ、その前にジグを倒さなければ」
ラビにはシノに会った時にこの先の世界を垣間みたのだった。




