49.最強の怪物
そいつは、思いのほか小さかった。人形、いや亜矢と同じくらいの背丈しかない。部屋のドアを開けた趙は、亜矢をかばう美樹と「そいつ」の背中を同時に見てそう感じた。背中に若干ウロコの様なものが貼付いている以外は人間と同じだ。長い緑色と黄色の混じった髪……、それは少女にさえ見えた。右側の壁に叩き付けられ、ぐったりしていたラビがようやく起き上がった。
「趙、こいつは、今までのものとは違うわ……」
「ああ、そのようだな。ポーレンではない、俺が変わろう」
その声に振り返った敵の顔を見て、趙は思わず声を上げた。
「……サラ、お前だったのか?」
「違う、サラはそいつに取り込まれただけ、サーベルタイガーの言った通り、既にこの屋敷には侵入者がいたのよ、しかも最悪、最強の奴がね」
「何だって?」
「侵入者」は健吾の切り落とされた足の指に埋め込まれた「シード」だった。ライフルに詰められた弾となり、屋敷に打ち込まれた。計画はこうだ。発芽をしたシードは、這い出したところに偶然居会わしたものに寄生する。それが「サラ」だったのだ。サラは既にシードを持っている、もしサーベルタイガーの言う通りなら、互いに消滅するだろうがもちろんそれは嘘だった。
振り向いたサラは、首筋に青い血管を浮き上がらせたまま、三つある目を趙に向けてかっと開いた。
「おのれっ! サラから出て行け」
たまらず趙は回し蹴りをモンスターに蹴り込んだ。しかしそれは身を屈めた怪物、「蛇」の様な少女にかわされた。空を切る趙の足は長い尾に絡められた。
「趙、その尾に気を付けてっ!」
ラビが叫ぶ、しかし趙は信じられない力で振り回され、壁に叩き付けられた。ラビの体がめり込む。趙の短いうめき声が上がった。
「ぐふっ」
それを見て、ラビが叫ぶ。
「趙、次が来るわよ」
ラビの声に反射的に身を挺した趙の頭上に「蛇女」の尾が打ち込まれる。鋼鉄入りの壁がまるで障子を突き破るように、簡単に打ち抜かれた。
「こいつ、いつの間に……」
双尾の蛇女は赤い舌を出し、初めて声を出した。
「一撃で、殺してやろうとしたんだけどねえ、一応は私の親だからねぇ、仕方ない。じゃあ苦しんで死んじまいな」
蛇女は全身に黒光りする鱗を増やし、それを逆立てた。
「シャア!」
明らかにそれと解る毒液をしたたり落としながら、するすると床を這いながら獲物を狩るように、蛇女は趙の回りを囲み始めた。
「ラビ、二人を抱えてまだ跳べるか?」
「当たり前でしょう。バニー・レディーを見くびらないでちょうだい!」
ラビは亜矢と美樹を抱えると、両足の腿を変異細胞で二回りも肥大化させた。
「すごいぞ、ラビ」
「ち、ちょっと見ないでよ! 一応レディーなんですから」
そう言い残すと、ラビは地上へ二人とともに飛び降りた。
「グジュッ……」
変異させた太い腿の筋肉は、しかし二人を安全に地上に降ろした時のその衝撃には耐えられなかった。立ち上がろうとするラビの前に茶色の革靴が見えた。
「ほう、見事なソフト・ランディング。ご苦労、さすがにシノのしもべたちだ」
「……お前は、誰だ?」
「ジグ、お前たちが知っている「ZIG」ズィー・アイ・ジーとは俺の名前だ」
ラビは、趙が蛇女を倒すことを信じていた。しかし、この相手はきっと蛇女以上の相手に違いない、ラビには力の入らない足で戦いそして勝つだけの自信はなかった。としたら……
「どうすればいい、こいつは間違いないシード・モンスターだ」
「見せてやろう、シード・モンスターの究極の姿を!」
その男は体の内部から溢れ出す様な光とともに巨大な体をラビの前にさらけ出した。ラビはそのあまりの大きさと、針の様な全身の体毛。反った牙を目の当たりにして、戦意を失いそうだった。巨大なマンモスが長い鼻を持ち上げた。




