48.モンスター激突
「ガルル」
うなり声をひとつきり残し、モンスターは跳躍をした。
「ボトリ……」
肉塊が床に落ちた。
「ううっ……早く、二人とも亜矢ちゃんのところへ」
さしものラビも片耳を怪物に噛みちぎれられた。しかし、バニー・レディーはひるむどころか凄まじい形相で三角とびから背面蹴りを続ける。二人は戦うラピを残しドアを開けることはできなかった。
「早く、ここを出ていくんだ!」
ドアを開けて入ってきたのは山崎だった。
「ククッ、思った通りだ。もう一つ教えてやろう、シードは「健吾」の足の指に入れてこの屋敷に既に運び込んでいる。亜矢の体は俺たちのものだ」
「しまった、早く二人とも!」
慌てて美樹とサラが部屋を出た。そして山崎が入ってきた。
「ふふん、今更お前たちに用はないがかみ殺しておくか。おっと子ウサギにもシードがあると聞いている、食うのは止めておこう。俺もまだ死にたくはないからな」
「下等なポーレン・モンスターが勝てると思っているの?」
「その自信はどこから来る、バニー・レディー。グハハハハッ」
「それはこいつを見てから言えよ、サーベルタイガー」
山崎が小さなカプセルを取り出した。
「それは?」
ラビが山崎に尋ねた。
「こいつの方がよく知っている、ルナティ86の結晶さ」
「おまえ、これをどうして持っている、俺が全て破壊したはずだ……」
「そうさこれはZIGの研究所のモノではない。俺の親友から先日届けられたのさ」
「なるほど、おまえはいつからこの屋敷にいる、ゼロ」
「おや、記憶力はさすがに学習した様だな、随分前からさ。だがゼロではなく俺のことは趙と呼んでくれ」
顔の変異細胞が「趙杢霖」をかたどる。
「おまえの親友だと?」
「杢原ノア、今ではドクター・ノアと呼ばれている。いや、呼ばれていたか」
「既に、86の結晶はできていたのか、ならば何故今まで秘密にしていたんだ」
「こいつは、サラのために作った最初のものだ。サラに使おうとしてぐずぐずしているうちに、多くの犠牲者が出た。その中にはサーベルタイガー、おまえの様な奴もいたのだ」
サーベルタイガーは牙を剥いた。趙の体がひときわ大きくなった。頑丈な爪と牙、赤茶けた体毛と鋭い牙を持つ、その姿はヒグマに似ている。
「趙、やっと回復したのね、よかった」
「ラビおまえのおかげだ、あとで話そう、こいつの言っていた通りだ。亜矢ちゃんが危ない、ここは俺に任せろ!」
「オーケイ」
ラビが二人に続いて部屋を出て行った。
「もう遅い、既にここには最強のモンスターが入り込んでいる。俺はここでおまえを倒すために来たのだ。ここにおまえはきっと現れるとあの方がおっしゃった」
「フフッ、あのお方? 日高のことだろう。いやおそらく彼も既に人間ではあるまいがな……」
「さあここなら思う存分戦える、生き残った方がシノ様に会える、そういうことだ。いくぞ」
「クククッ、さあ来い、ゼロ」
サーベルタイガーは軽やかにヒグマの肩を超えた。血しぶきとともに巨大なヒグマの右肩が噛みちぎられた。
「ぺっぺっ、やはりまずいな、人間の方がうまい」
肉塊を吐き出しそれでも体を低く構えたままのサーベルタイガー、そして見る間に新しい肩の肉が再生したヒグマの戦いが始まった。
俊敏なサーベルタイガーはひととびごとにヒグマを噛みちぎる、腕も何度か切り落とされる、しかしシードモンスターの再生能力はポーレン(花粉)モンスターとは比べ物にならない。
「グルルルッ、く、おのれっ」
そして遂にその鋭い前足の爪がサーベルタイガーの腹に食い込んだ。そしての傷口に趙は「ルナティ86」の結晶を投げ入れた。勝負はついた。
「グウルルッ、ポーレンが破裂する。いやだ、まだ死にたくないー」
粉々にちぎれとんだサーベルタイガーの肉片は四方の壁に届くまでに白い砂に変わった。
「これが、ポーレン・モンスターの最期か……」
白い砂山に変わったモンスターの体から、人型に戻った趙は「86の結晶」を拾い上げてそう言った。
「よし、俺もすぐ向おう!」
ドアをそっと閉めて、趙は足早に階段を駆け上がった。




