47.イモムシ
イモムシと聞いて、誰よりサラが興味を持った。それもそうだ、サラはそのイモムシをよく知っていたのだ。
「そいつは人の指くらいの太さのイモムシだった。緑色の葉っぱをせっせと和子は毎日運んでいる様だった。どうやら葉の好みも和子には解るのだろう、やがて飽きっぽい和子はもう倉庫へは行かなくなった」
「イモムシ、死んじゃったんじゃあないの?」
ラビがそう言うと、健吾は首を横に振った。
「いや、そいつは成長し次の段階に入ったんだ」
「次の段階?」
「そう、このシードと花粉に分離したらしい」
「普通なら受精して、生まれた生き物は成体になって子孫を残すのに」
ソファを立ちながら、美樹が口を開いた。
「シードを残して飛び散ったポーレンは、空中で四散し、消滅した様だった。俺はそう思っていた、ところがそれは少し違っていた」
健吾は数枚の写真と手紙をとり出した。美樹が新しいコーヒーを持ってきた。
「その写真は、見たことがあるわ」
「和子の最期はショッキングだった。まるで怪物にかじられた様に酷かった、事実それはモンスターに食われたのだ」
肉塊となった妻の写真をちらりと見ても彼は冷静に話を続けた。
「ポーレンは微小な塵の様なもので、和子はそれを肺に吸い込んでしまったに違いない。その頃から和子が少しずつ変わり始めた」
礼も言わず美樹の運んできたカップをとり、口を付けると健吾はある夜の出来事を話した。
「……いやに明るい満月の夜のことだ、ふと気配に俺は目覚めた。隣の和子が寝室のカーテンを一杯に空けていた。まるで月の光を浴びるために、いや実際に少しずつその体が変化していた、和子は初めて聞く声でこう言った」
「……もう少しで、シードは目覚める、シノを探せ。マスターにその身を捧げろ」
「俺はベッドの上で背筋が凍る思いで堅く目を閉じていた、既に和子はそこにいなかったのだ」
「それからどうなったの?」
「暫くして、突然窓ガラスが割れた。俺は飛び起きた、その時俺は月明かりで見たんだ」
飲み終えたコーヒーカップを置く健吾の指が震えていた。
「妻が目の前で、長い牙の怪物に食い殺されるのを……」
「それで、そのシードを使って亜矢を救うってどういうこと?」
美樹が健吾に尋ねた。
「これは、その後俺が着替えを探している時に、和子のバッグから見つけたものだ」
そう言うと、健吾はシードを手に取り手紙を読み始めた。
「……これはシード(種)と言う、パラサイトだ。生き物の成体エネルギーを20%食う変わりに寄生主をあらゆる災厄、危険から守る。その目的はその後『シノ』という『マスター』の元へ集めた成体エネルギーを送るためだ。人の場合、80歳までは確実に生き続けられる。ただしその後寄生主は……」
そこで健吾は読むのを終えた。
「その後寄生された人間はどうなってしまうの?」
サラが初めて口を開いた。
「これから先は俺には読めない、古い少数民族の使う言葉があるだけだ。オロチ、オロスだったか由樹さんならこの先も読めたろうに……」
「それで、亜矢ちゃんにそのシードを寄生させろっていうの?」
「ああ、そうすれば亜矢は救われるのさ」
健吾は亜矢が「パラサイト・シード」に寄生されていることは知っている、それなのに更にシードを寄生させろと言う、それは何故なのかと三人は疑問を抱いた。
「シードは寄生主をあらゆる災厄から守る、だから亜矢の体を守ってくれるはずだ……」
「でも、既に亜矢の体はシードが守っている、更にもう一つなんてとても」
「二つのシードが戦った場合、双方は力尽き消滅するのさ」
「あなたそれをどうして知っているの?」
「和子を食い殺した怪物が俺に襲いかかろうとした時、このシードを見てそう言ったのさ、俺と一緒にこいつを食っちまったら、自分が消滅してしまうとな」
「そうなの、それで解ったわ。これが本物のシードじゃないって」
ラビがそう言って立ち上がった。
「うまく化けたわね『サーベルタイガー』正体を現したら?」
サラが続いた。
「さすがに、睡眠薬入りのコーヒーを二杯飲んでも変わらないって変でしょう?」
美樹もそう言うと立ち上がり笑った。
「クククッ、気付いたか。まあ当たり前か、しかし遅かったなここでお前たちは俺の牙にかかるのさ」
サーベルタイガーは健吾の皮膚を引きちぎった。
「バニー・レディー、ラビが相手をするわっ!」
ラビが後方宙返りを決めた。




