41.コーンスープ
「ZIG」の攻撃にもなんとか持ちこたえた監視カメラが、ラビの乗った青いジェットヘリを捉えた。モニターに映し出されたのは、バニー・レディだった。しかしそれは時々モノクロ画像に変わる。
「ここに、きっとサラと哲生がいる。私たちに力を貸してくれるに違いないわ」
ラビは普段垂れたままの長い耳をいっぱいに伸ばし、二人の居場所を特定した。積もった新雪に埋れた地下のシェルター、そこへ続く緊急時の入り口をラビは難なく見つけ、たちまちそれを掘り当てた。
少しへこんだドアが自動で開いた。中には駿河哲生の姿があった。
「いらっしゃいませ、バニー・レディ、早速温かいスープでもどうかな?」
カップを差し出す哲生にラビはにっこり笑って応えた。
「ありがとう、今回はチモシーも持参したわ、ミスター・哲生」
哲生の後ろのベッドから別の声が聞こえた。
「ううん……」
目覚めたのはラビと同じ緑色の髪をした趙の娘サラだった。
「テツ!すごい、どこでこんなもの見つけたの?」
「食料庫のゴミ山の中からさ、サラ。紹介しような、彼女はバニー・レディ……」
「よろしく、ラビアン・ラビリンス」
「こちらこそ、サランチムグ(月の飾り)、サラでしょう?」
「なんだ、お互いに自己紹介なんて必要ないのか」
二人とも体内に同じタイプのシードを持つ、たちまち二人の過去の経験がシンクロした。もちろん全てではない、亜矢の姉「香矢」の事、とりわけ「シノ」の事に関しては「サラ」でさえ、覗き見ることはできなかった。まだラビは「サラ」を完全には信じていなかった。
「いいのよ、私にも覗かれたくないことがあるもの。それにコーンスープが冷めちゃうし」
「そうね、何より今後の作戦を練らないとね、サラ」
しかしサラは、両手でカップを持ってスープを飲み干すとさらりとこう言った。
「作戦? 悪いけど、興味無いから私」
唖然としたラビはサラにこう言った。
「興味ないって、あなたのお父さんを殺した『ZIG』が憎くはないの?」
「私にとっては母を見殺しにした『趙杢霖』という細菌兵器開発責任者の方が憎いわ」
それを聞いて、哲生はまだ完全にサラの「マインド・コントロール」が解けていないことに気が付いた。
「もう暫く趙のことは置いておこう」
ラビは哲生の「目くばせ」がそう言っているのを読み取った。
「サラ、あなたは狙われている。それはなぜか知っているでしょうね」
「知っている? もちろんよ、私は特別の力を持っている、このことはもう随分前から知っていたけれど、ずっと二人の秘密だった」
「二人ですって?」
「そう、あの時見つけたイモムシの中で私に話しかけてくれた彼との秘密……」
「彼?」
「パラサイト・シード『ラグ』よ、私の命の恩人」
「シードが命の恩人、まるで亜矢と同じ……」
いつの間にか再び吹モニターに吹雪が捉えられた。哲生はヒーターの温度を少し上げ、ブランケットを二人に渡した。
「電源がいつ切れるか解らない、二人とも休んでおけ。吹雪がやんだらすぐにジェット・ヘリが飛べる様に整備しておく。今度のモンスターは素早い、もうそこまで追ってきているはずだ」
「日本かぁ、いつも私に話していたテツの故郷に行くのね。そこには希望はあるのかしら?」
「さあな、ただ君も知らないシードの真実がそこにはある。ラビ、そうだろ」
「ええ、ヘリがまだ動けばだけれどね。途中右のジェットのタービンが溶けたみたいなの」
「それを早く言えよ、なんてこった、今晩徹夜かよ」
「テツ、治せるの?」
「ジェット・ヘリは俺が開発したタービンを搭載している、試作タービンはここで作ったのさ。雄馬の目を盗んでコツコツと、朝まではパワーアップしたジェット・ヘリを完成しておくから、速く寝ろ」
「はぁーい」
二人の声が分厚い防寒着を着た哲生の背中を見送った。




