40.命の恩人
「ソムテル」は「橘善三」がマンモスを偶然発見した場所に近い。パラサイトが一足先にその村で目覚めていたのは予想できる、もちろん当時まだ誰もその存在を知らなかった。
サラは、別段異常もなく成長していく。ただ、緑色の髪は長くそのままだった。そしてある日サラが突然意識を失う。それはちょうど善三が冷凍マンモスと一緒に「シード」を日本に運んだ直後のことだった。
「何故、サラを救えない。Z会の医療技術では娘一人の命さえ救うことが出来ないのか」
趙は必死にサラの体を調べ、ついにその原因をつきとめた。
「何だ、こいつは?」
最初に「シード(実はポーレン)」を見つけたのは、Z会の科学者「趙杢霖」だった。
彼女の体内には、奇妙な「シナプス」が形成されていた。それはサラの脳下垂から心臓まで達する「糸」状のシナプスだった。そのシナプスが彼女の心臓の表面に沿って複雑に絡み合い、その鼓動を制御していた。このままではサラの命が危険だ、急いでそれを切除する必要があった。「Z会」の医療技術とは実のところ「細菌兵器」から兵士たちの身を守るためのものに過ぎなかった。趙が諦めかけたとき、あるニュースが飛び込んできた。画期的な医療器具が開発されたのだ。
「これがあれば、あのシナプスの切除ができるかもしれない」
その「カテーテル」はAI(人工知能)を持つ、しかもリモートコントロールできるものだ。もし「Z会」が開発したなら100%兵器として売り出していたに違いない。しかしそれは医療器具として作られ、そのパテントまで放棄されていた。
「愚かな、さあすぐにこのAIを使い、超小型の自走式兵器を開発するのだ」
届いたばかりの真新しい「カテーテル」を見て「Z会」の幹部は科学者にそう命じた。そして、最新の人工弁がサラの心臓の鼓動を取り戻させてくれた。
「NAC、これを開発したのは『ユウマ・タチバナ』という日本人……」
サラのシナプスを切除した後、趙は雄馬に会い、心から感謝した。その時切除したシナプスを培養して作られたのがポーレン、それを実験的に埋め込まれた最初のエージェントが「0(ゼロ)」つまり趙杢霖なのだった。彼はその「人体実験」と引き換えに家族の安全と自由を手にした。
やがて「利用価値のないもの」とされた彼の妻は殺され、サラも行方が長くわからなかった。しかしサラの体に残る、切除できなかった「シナプスの核」がある限り、「Z会」がサラを殺すことはないだろう、彼はそう思い故郷を離れ「0(ゼロ)」としての任務を遂行し続けていた。
ソムテルには人の気配は無い。サーベル・タイガーはその嗅覚をさらに研ぎ澄ませた。しかしサラの気配もあの忌々しい男の匂いも、とうに消え去っていた。
「ガルルルッ、やはりオロスの研究所に隠れているのか、むしろ好都合だ」
さらに北に進もうと足を速めるモンスターはしかし、それを止めた。積もり始めた新雪に足が深く突き刺さり、サーベル・タイガーは次第に身動きが取れなくなってきた。偶然オロスを初雪が覆い、一瞬で数メートルの積雪となってしまったのだ。
「ガルルルルッ、命拾いをしたな、サラそして哲生」
サーベル・タイガーが追跡を中断した頃、その先いくつもの渓谷の奥にある「オロス研究所」の最深部では、古い「地熱発電装置」がやっと稼働し、地下室の暖房が少しづつ、サラの身体を温め始めた。
「なんとか凍えずに済みそうだ。そのうちスープも温まる、優秀な仲間にもご馳走しよう」
缶入りのコーンスープを探し出した彼は、蓋をナイフでこじ開けコンロにかけるとそう言って笑った。モニターに映る白い雪を眺めながら、駿河哲生はオロスが北極圏の村だという事をあらためて認識した。
「今夜も白夜だ……」
ふと、美樹と見たオーロラを哲生は思い出し、照れ笑いをした。美樹は姉の代わりに亜矢の身の回りの世話をしている、哲生が「ZIG」のせん滅のため単身渡米し、美樹が稲荷の家に戻った今も二人の気持ちは寄り添ったままだった。




