38.新たなモンスター
結局降りて来なかった亜矢は、ラビの乗ったジェットヘリを二階の窓から見送っていた。
「まったく、しょうがないわね。すぐに帰って来るって、亜矢元気だしなさい」
「だから、ここで見送っていたの。美樹おばさまは私が怖くないの?」
それは亜矢の正直な気持ちだ。身体の中に姉という、別の人格が同居している。それだけではない、自分を狙い次々と起きる事件。モンスターに襲われ命を落とした両親や趙をはじめとした多くの人たち。そして亜矢のことを話した途端、まるで汚物を見るような目に変わった叔父や叔母……。亜矢の小さな身体は小刻みに震えていた、しかしそれは嫌悪からではない、覚悟を決めた「武者震い」のようなものだった。
「サラを助け出してね、ラビ。私は大丈夫だから」
亜矢は身体の奥に溢れる力が姉の「香矢」のものだったと知らされ、安心した。
「この力は、何処から生まれたのか、何のためのものなのかしら?」
亜矢はそう思い、鏡を見た。少し髪が伸びた、大人びた少女が映った。
「これは私? それとも……」
しかしその問いに答えるものは、誰もいなかった。
善三は、亜矢の身を守るために彼女の記憶を作り変えた。幼くして両親を交通事故で亡くし、祖父に引き取られた亜矢は善三と美樹に育てられた……。その記憶が新しく亜矢の記憶として刷り込まれていく。その記憶が彼女の記憶として脳に刷り込まれるまで、さほど時間はかからなかった。ラビが強化した屋敷のセキュリティシステムのおかげで、しばらくは平和な日々を亜矢は過ごすことができた。
「そうか、善三が亜矢を本気で守っているのか」
「ドク、モンスターにご指令下さい。必ず亜矢を連れてきましょう、こいつのポーレンは最高潮に膨れ上がっております。シードに劣る訳がありません、あの『はねっかえり(ラビ)』もこのモンスターの敵ではないでしょう」
「ラビがオロスでサラに接触していないならな。ZIGのエージェントたちは二人の居場所を完全に把握しているのか」
「もちろん、ドク。いまいましい、駿河哲生はサラと共に『ソテムル』という村に確認しています。ご指令下さい、すでにモンスターを送り出しています、やつの牙から逃れることはできますまい」
「そうか、ノア。最強のモンスターへと変異した『1号』に叶うものはない、どうせ亜矢は屋敷から外へは出ることはないだろう。まず哲生を始末せよ、次の満月の光はどうしても独り占めする必要がある」
「仰せの通りでございます」
ノアは、モンスターの体内に埋め込まれている「プラグ」に指令した。
「さあ、最強のモンスターよ、遂にシードとなってみせろ、われらの力を見せてやれ!」
その指令は、ZIGの秘密基地として使われていた「オロスの研究所」に瞬時に届いた。白服の男がその服を引き裂き毛むくじゃらの体で雄叫びを上げると変異を始めた、狼男か? いやそうではない、ふた回りも巨大でしかも引き締まった体躯のそのモンスターは長い牙を持つ「サーベルタイガー」のモンスターに変異を遂げた。四つ足になり、うなった」
「グルルルルッ、いよいよ出番か。待遠しかったが、ようやくごちそうにありつける……」
ZIGエージェントをことごとく食い散らし、モンスターは腹を空かせていた。赤く目が輝き、そう言うと表に走り出した。十六夜の月がその姿を照らしていた。




