37.決断
ラビの解析はほぼ妥当なものだ。モンスターの気配があっては伊織が動きにくいと、日高が画策したものだった。サラはおそらく、駿河哲生と一緒だが、その所在は未だはっきりしないままだ。「バニーレディ」として亜矢を守るためにラビはどうするべきか、月を見上げながら、その夜も考え込んでいた。何処からか野犬の遠吠えが聞こえてきた。
「何かが、来る。今迄とは違うこの感じは、一体何?」
ラビはその気配のする方に顔を向けた。
その気配は、ラビにとっては未知のものに違いない。しかしラビは「それ」が何かを知っていた。いや、正確に言えば、それは「シード」の記憶として深層に残っていた。瞬時にラビはその気配の主、両親を一瞬で失った「亜矢」の眠るベッドを凝視した。
亜矢は上半身を起こし、ベッドから床に降りた。その容姿に変化が起こる、月明かりに照らされた青白い顔がラビの目に映った。亜矢の顔がこころなしか揺れている、そしてその開いた瞳には思わず「かしづく」ラビの姿が映った。
「シノ」が寄生した亜矢の姉「香矢」がその長い髪をたくし上げた。
亜矢の姉、双子で生まれるはずだった「香矢」の姿を初めて見たラビだった。
「あなたは?」
香矢がそう尋ねた、それは名の確認だ。香矢は亜矢の中で「バニーレディ」の活躍をすでに知っていた。ラビはうやうやしく頭を下げ、そして答えた。
「マスター、お会いできて光栄です。ラビアン・ラビリンス、ラビでございます」
「亜矢を守っていてくれていることは、ずっと知っています。それにもう一人……」
「趙は、ボーレンから生まれたために既に力を失いました」
「ポーレンから? そんなことが人間に可能なのですか」
ラビは今迄の趙の様子を、香矢に報告した。
「では、ドクと言う人間はルナティ86を既に知り尽くしているのですね。ではその終焉の世界までも……」
「終焉?」
ラビは香矢に聞き返した。しかし香矢は話題を変えた。
「ラビ、亜矢は心配せずとも良い、ZIGを追いなさい」
そう言い残すと、香矢の姿が消え去り、亜矢が再びベッドに崩れた。
「亜矢の事は心配いらないわ、気分も随分落ち着いてきたしね」
美樹は、姉の由樹から亜矢の身体について全て聞いてはいたが、あえてそれには触れずラビを送り出した。ラビの行き先は、もちろんすでに廃墟になっている「オロス研究所」だ。
「オロスしかない、趙の故郷にサラは必ずいる」
研究所を拠点として、ラビは「ポーレン」の秘密を知っていると思われる趙の娘「サラ」を捜し出そうとしていた。
「亜矢には、なんと説明しようかしら……」
今回は、モンスターと一騎討ちになるだろう。しかもおそらくは更に強くなっている。
ラビはシードから生まれた。ポーレン(花粉)から生まれた趙やモンスターとは、変異力も格段に勝っている。しかし趙も驚く程のモンスターの進化は侮れない。きっと亜矢を狙い再び現れるだろう。ラビはその前に「サラ」を救い出し、ポーレンの秘密を解明しておこうと思っていたのだ。その間はラビが強化したセキュリティ・システムがある、それを信じるしかなかった。それに「香矢」の力が目覚め始めたこともラビの決断を後押しした。




