35.マグナム・エース
葬儀の日、趙は雄馬と由樹、亜矢といた。ラビは屋敷に残り善三と一緒にモンスターの攻撃に備えていた。途中立ち寄った公園は人気もまばらだった。しかしそれでも趙は付近の気配を探っていて休むことはない。
「モンスターの気配はありません、さあ急ぎましょう」
「もう少し、ね? 趙」
久しぶりに外の風に当たった由樹が亜矢の手を引き、途中休憩に立ち寄った公園のベンチに座った。雄馬も笑って趙に言った。
「本当は、美樹さんに話したいこともあったろうが、屋敷にお義父さんが着くまで気晴らしになるなら、そうしてやってくれ趙」
「モンスターの気配はありませんが、少しだけですよ。ミスター・雄馬」
「わかった、ありがとう趙」
雄馬も亜矢の元へ駆けて行った。
「しかし、あのモンスターの成長は何だ。86を体内から取り出しているくらいではない。まるで『作り出して』いるようだった。今度は果たして……」
趙の頭に初めてかすかな不安がよぎる。
「やつの気配が感じられないのがせめてもの救いだが、おや?」
黒いセタンの高級車が公園に入ってきた。異変に気付き、駆け寄る雄馬がゴムボールのようにボンネットの上に跳ね上げられた。そして由樹もためらいなく跳ねて急停止した。セダンから降りてきたのはもちろん「伊織」だった。
「いやぁ、お母さん!」
亜矢の腕が乱暴に掴まれ、伊織に連れ去られようとした。趙が駆け寄る前に亜矢の身体がその場に崩れた。スタンガンを拳銃に変えて、伊織が趙に言った。
「おっと、動くなよ。この娘を殺されたくなかったらな」
そう言いながら、伊織は亜矢をセダンの後部座席に押し込むとあとに続いて消えた。
「発車しまあーす」
笑いながら「杢原ノア」がシフトレバーをリヴァースに入れ、土埃の中でスィッチ・バックを決めて公園を走り去った。「奇襲」は「GIGエージェント」の得意とするものだ。さすがの趙も油断があった、趙が必死の形相でリアウインドウに飛びついた。
「しつこいぜ、赤トカゲ」
リアウインドウが44マグナムの炸裂音とともに粉々になり、趙は地面に叩きつけられた。
「伊織さんには叶わないな、車の中からでもマグナムをぶっ放しちまうんだから……」
ノアが耳栓を外した。
「おや? 用意がいいな」
「ここをやられると、まずいからね」
「確かに、おや?」
伊織は背後から追ってくる趙に気づいた。
「ほう、噂通りタフな奴だ。もう一発、追加してやろう」
趙の膝の関節を狙い、伊織のマグナムが打ち込まれた。小型ミサイルの破壊力を持つように「ZIG」の「エース・スナイパー」として、伊織はその拳銃を使い、多くの邪魔ものを始末してきた。その一人に「古代細菌の研究」で名高い「鳥居 慶太」博士もいたのだ。博士は駿河哲生、そして日高の師でもあった。これが二人の現在の立場を対立するものに決定づけていた。
膝下を吹き飛ばされた趙は、バランスを崩し地面にうつ伏した。
「しまった、奴はシードを持っていない。聞いたことがある、マグナム・エースのイオリ……。早く追わねば」
足の再生にはもう少しかかりそうな趙は、背後の気配に振り返った。猛スピードで近づくのはきっとバニーレディに違いない。




