34.コード・ネーム「ゼロ」
「しくじったか、やはり趙は我々の敵にしてはならない。やつの娘を奪い返してこい!」
ドクは顔面が復元を終了したばかりのモンスターに命じた。そして伊織にはこう言い放つ。
「お前の仕事は亜矢をさらって来ることだ、雄馬達は始末しても構わない。趙達も人間相手だと戦い難いはずだからな」
「承知しました」
いつの間にか日高は支配者のように変わっていた。「ドク」として、伊織を高圧的に指示し始めていた。そのやりとりを聞いていたノアは独り言のようにつぶやく。
「ルナティ86(エイトシックス)はこうしてパラサイトの本能を次第に表していくのか。そして『シノ』の元へ引き寄せる、全てはその大いなる目的のために」
徐々に日高の精神は「パラサイト・シード」にむしばまれていく。誰もそれを止めることはできない。
翌日、亜矢のところへ連絡用の小型「ドローン」が着いた。通信データを解析していたラビの指が、ひとつの画像ファイルで止まった。
「この娘が、趙の娘さんなの?」
ラビが驚くのも無理はない。そのデータの中身は「Z|G」の挑戦状にすりかわっていた。
「サラ、何だその姿は!」
趙の目には、丸刈りにされ、縛られたまま床に転がったサラとその横に立つ新たな「モンスター」が映し出された。
「グルル、趙よ。言わずとも分かろう、組織に戻れ。お前は誰のために『怪物』になったのだ。こいつのためだろう、使命を思い出せ」
「使命?」
ラビの声とともに、一同が趙を見つめた。データは趙へのメッセージにすり替わっていた。
「防護シェルター!」
データの解析が終わるとドローンは自爆した。スキャンして爆発物を検知した雄馬は、シェルターのキーに触れ、円筒状の防護シェルターを即座に降ろした。噴煙とドローンの残骸がダスト・シュートに吸い込まれ、安全を確認した緑色のインジケーターがともった。
「専用のドローンにまで、ZIGの手が及んでいるのか。この屋敷も最早、安全ではない……」
善三は趙の肩に触れると、頭を下げた。
「すまない、どうやら娘さんは彼らの手にあるようだ。我々の力ではあのモンスターから守りきれなかった……」
「さすがのテツもモンスターには叶わなかったのか」
「じゃあ、哲生さんも一緒に?」
心配そうに、由樹は雄馬の側でそう言った。いっぽうラビは趙に最初から、少し異質のものを感じていた、その理由が少し分かり始めた。
「趙は、ZIGに作られた『新型』だったのね」
由樹は、妹「稲荷美樹」に哲生の悲報を告げた。最初は信じなかった由樹も国連軍本部の相次ぐ破壊状況の報告に、信じるを得なかった。
「趙、偶然ネオロイドになったというのは嘘だったのか?」
遺影だけの哲生の葬儀が終わり、雄馬は屋敷に戻る車中で趙に尋ねた。
「ミスター・雄馬、私の正体は、シードの花粉を萌芽させた『ピン・プラグ』をZIGに体に埋め込まれた、コード・ネーム『ゼロ』です」




